扶養から外れる手続きの方法は?条件やメリット・デメリットを紹介

パートタイムで働く人なら、年収が一定以上になると配偶者の扶養から外れなくてはならない「〇〇万円の壁」をご存知でしょう。本記事では、扶養から外れるタイミングや、必要となる手続き、扶養から外れるメリットとデメリットなどを解説します。

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扶養の種類

会社勤めをされている人は、「扶養」という言葉を見聞きする機会が多いのではないでしょうか。扶養とは、一定範囲内の近親者が、経済的に自立できない家族などを支援することをいいます。配偶者や子供、両親などを扶養する例が一般的です。

扶養の種類は、以下の2つです。

  • 健康保険の扶養
  • 税法上の扶養

それぞれの扶養は条件が異なるため、税法上の扶養には入れても、社会保険の扶養からは外れることがあり得ます。この場合の社会保険は、健康保険と厚生年金保険を意味します。

扶養される人を「被扶養者」や「扶養親族」と称し、前者は社会保険での呼び方、後者は税法上の呼び方です。2つの意味はほぼ同じですが、対象範囲などが異なるため、混同しないよう注意しましょう。扶養の条件については、後述しますので参考にしてください。

なお、扶養の義務について、民法は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」(第877条)としているほか、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(第752条)と定めています。

参考:e-Gov法令検索「明治二十九年法律第八十九号 民法」

健康保険の扶養

この項では、社会保険の扶養のうち、健康保険の扶養について説明します。厚生年金保険で被扶養者(扶養の対象)となるのは、厚生年金加入者の配偶者のみです。これに対して、健康保険の被扶養者は、幅広く設定され、同居の有無などの条件も加わります。対象範囲と収入基準に関して、以下で詳述します。

被扶養者の範囲とは

健康保険における被扶養者の範囲は、3親等内の親族と配偶者です。健康保険法第3条では、以下のように規定しています。

  • 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚を含む)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持
  • 被保険者の3親等内の親族(前項の対象者を除く)で、被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持
  • 被保険者と事実婚の関係にある配偶者の父母及び子であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持

健康保険の被保険者は、法的には家族ではない事実婚での配偶者や、その父母や子供も対象となる点が特徴です。75歳になると、全員が後期高齢者医療保険に移行します。それまで健康保険で扶養に入っていた人も、75歳になったタイミングで扶養を外れて、後期高齢者医療保険の加入者となります。

参考:e-Gov法令検索 「大正十一年法律第七十号 健康保険法」

被扶養者の収入基準

健康保険の扶養に入るための条件は、主として被保険者によって生計を維持していることです。認定されるための収入基準は、被保険者と同一世帯の場合は年間130万円のため、「130万円の壁」といわれます。

60歳以上や障害がある人の場合は、扶養の対象となる上限の収入が年間180万円に上がります。「〇〇万円の壁」は複数あり、詳しくは後述します。

健康保険は、別居していても扶養に入れます。遠隔地で下宿している子供や、実家の両親などをイメージするとわかりやすいでしょう。この場合も、上記の130万円または180万円が収入基準です。別居のケースでは、仕送りなど被保険者からの援助額より本人の収入が少ないことが条件として加わります。

税法上の扶養

税法上の扶養は、健康保険とは大きく異なります。具体的には、年齢要件がある点や、事実婚の場合には配偶者と認められないことなどです。所得税で扶養の対象となる親族の範囲は、配偶者および6親等内の親族と3親等内の姻族です。姻族とは、自己の配偶者の血族または自己の血族の配偶者を指します。

税法上の扶養は、所得の一部を税額計算の対象から外す「控除」とかかわっており、所得税の控除には、大きく分けて以下の3つがあります。

  • 配偶者控除
  • 配偶者特別控除
  • 扶養控除

配偶者控除と配偶者特別控除は、配偶者のみが対象です。扶養控除は、配偶者を除く親族を対象とします。そのほか、配偶者や子供の有無などとは関係なく、無条件に課税対象から外される基礎控除があります。各種控除の解説は以下のとおりです。

配偶者控除

配偶者控除は、配偶者の所得が一定以下の場合、扶養者の所得から一部が控除される仕組みです。課税対象となる所得の額が小さくなるため、税額も少なくなる効果があります。配偶者控除の対象となるための主な条件には、以下のようなものがあります。

  • 配偶者の年間所得額が48万円以下
  • 扶養者と生計を一にしている

国税庁の定義では、「生計を一にしている」とは「日常の生活の資を共にすること」です。同じ財布から生活費を出している関係ととらえれば、わかりやすいでしょう。別居していても、生活費などを常に送金しているような場合は、生計を一にしているものと認められます。

配偶者特別控除は、配偶者の年間所得が48万円を超え、133万円以下の場合に扶養者の所得から一定額が控除される制度です。配偶者の所得額と扶養者の所得水準により、1万円〜38万円が控除されます。扶養者本人の年間所得が1,000万円を超えているときには、配偶者控除、配偶者特別控除とも対象になりません。

参考:国税庁 「生計を一にする」

扶養控除

子供や親などを養っている場合、配偶者控除と同様に、扶養者の所得から一部が控除されるのが扶養控除です。扶養控除の対象となるための主な条件は、以下のようになっています。

  • 年間所得額が48万円以下
  • 配偶者以外の親族
  • 16歳以上である
  • 扶養者と生計を一にしている

年齢に下限を設けているのが、扶養控除の特徴です。扶養控除は扶養親族の年齢によって切り分けられます。年齢の上限は設定されていません。概要は以下のとおりです。

  • 一般の控除対象扶養親族(16歳以上19歳未満または23歳以上70歳未満)
  • 特定扶養親族(19歳以上23歳未満)
  • 老人扶養親族(70歳以上)

控除額はそれぞれ異なり、一般の控除対象扶養親族は38万円、特定扶養親族は63万円です。老人扶養親族は、同居老親等なら58万円、それ以外では48万円と分かれます。

参考:国税庁 No.1180 扶養控除

基礎控除

基礎控除は、すべての納税者を対象に、扶養親族の有無にかかわらず実施される控除です。所得税の基礎控除額は、納税者の年間所得額によって変わります。年間所得2,400万円以下の場合は48万円、2,400万円超2,450万円以下では32万円、2,450万円超2,500万円以下は16万円、2,500万円超では0円です。

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社会保険の扶養から外れるタイミング

扶養から外れなくてはならないタイミングを示す年収や所得の額が、よくいわれる「〇〇万円の壁」です。前述のとおり、扶養に入るには条件があり、条件が満たせなくなった場合には、扶養から外れることになります。扶養から外れると税金や健康保険料などの支払いが発生し、給料の手取り額が目減りしてしまいます。

ここからは、代表的な「〇〇万円の壁」について説明します。

103万円の壁

配偶者や扶養親族の年収が103万円を超えると、配偶者控除や扶養控除の対象ではなくなるため、扶養者の支払うべき所得税額が増えてしまいます。配偶者や扶養親族自身も、103万円を超えた分の所得に対して所得税を払わなくてはならないため、手取り額の減少を余儀なくされます。これが税法上の「103万円の壁」です。

130万円の壁

社会保険の扶養に関して、影響が大きいのが「130万円の壁」です。健康保険も厚生年金保険も、扶養に入れるかどうかの境界線は年収130万円に設定されています。年収が130万円を超えると、親や配偶者などの社会保険からは抜けなくてはなりません。

健康保険料や厚生年金保険料の支払いが発生するため、手取り額が減ってしまいます。健康保険料は月収にほぼ相当する標準報酬月額の10%(協会けんぽ、東京都の場合)、厚生年金保険料は18.3%で、それぞれ半分が自己負担です。

扶養から抜けた際に、要件を満たせずに、勤め先の健康保険に加入できないことがあります。その場合は、国民健康保険に自分で加入することが必要です。国民健康保険の料率は自治体ごとに異なります。

150万円の壁

配偶者特別控除が段階的に縮小し始めるラインが年収150万円です。配偶者の年収が150万円で、扶養者の年間所得が900万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円です。ここから配偶者の年収が上がるにつれ、配偶者特別控除は減額され、201.6万円以上で控除はなくなります。

150万円の壁より前に、130万円の壁があります。収入に与えるインパクトという面では、健康保険料などの支払いが一気に押し寄せる130万円の壁の方が、配偶者特別控除が漸減を始める150万円の壁よりも大きいといえるでしょう。

扶養から外れる例

扶養から外れる場合には、どのような例があるでしょうか。まず考えられるのは「就職」です。子供が学校を卒業して就職した、家事に専念していた配偶者が働き始めた……などのケースが考えられます。

就職はしなくても、なんらかの理由で年収が130万円を超えると、扶養の条件を満たせません。扶養していた親が75歳になり、後期高齢者医療保険の加入者となった場合も、扶養から外れます。

雇用保険の失業給付を受給していると、被扶養者にはなれない点には注意してください。失業給付は、受給中に再就職することを前提としており、一時的に退職以前と同様の生活ができるようにすることを目的としているためです。ただし、給付が実施されていない待期期間などは、被扶養者になれます。

扶養から外れる場合に必要な手続き

上述のようなケースで扶養を外れることになると、手続きが必要です。手続きは、雇用者側で行うものと、従業員側が行うものとに分かれます。それぞれについて、以下で解説します。

雇用者側の手続き

必要書類を預かり提出する

従業員の配偶者や子供などが扶養から外れる際には、雇用者側は被保険者に、健康保険被扶養者異動届に記載してもらう必要があります。雇用者側は記載済みの書類を預かり、健康保険組合などの保険者に提出します。健康保険被扶養者異動届の提出は、異動の事実を知った日から5日以内です。

切り替えの手続きをせずに、実際には扶養から外れている人が以前の健康保険証を使って医療機関で診療を受けると、医療機関からの費用の請求が元の健康保険組合などに回ってしまいます。元の健康保険組合が負担した医療費は、後で返還しなくてはなりません。費用と手間が生じてしまうため、注意が必要です。

社会保険の加入条件を確認する

被扶養者が、収入増などによって扶養を外れる可能性が出てくることもあります。被扶養者の勤め先である雇用者側は、被扶養者が扶養から外れた場合について、社会保険の加入条件を確認する作業が必要です。加入条件は以下のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2か月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

条件を満たしているなら、社会保険被保険者資格取得届の提出が必要です。健康保険と同時に厚生年金保険にも加入することになるため、手続きに必要な年金手帳やマイナンバーがわかるものなどを用意するよう伝えておきましょう。

従業員側の手続き

従業員側でしなくてはならない手続きは、扶養から外れた後に加入する健康保険の確認です。企業に勤めている場合は、前項で示した加入条件を満たしていれば健康保険の被保険者になれます。条件を満たしていないときは、国民健康保険に加入することになるため、住んでいる市町村などで手続きをしてください。

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扶養から外れるメリット

扶養から外れることによって受けられるメリットがあります。扶養から外れることには、何か「損をする」というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし、老後の年金が増えることや、自由な働き方ができることは扶養から外れるメリットです。以下で具体的に説明します。

老後の年金が増える

扶養から外れて自分で厚生年金保険料の支払いをすれば、老後に厚生年金を受給できます。保険料負担が気になったとしても、老後の年金が手厚くなるメリットを得られます。

扶養に入っていれば、厚生年金保険料の負担はありません。その場合には、老後に受給できるのは国民年金(基礎年金)だけです。老後の生活を少しでも豊かにしたいのであれば、扶養から外れるほうにメリットがあるといえます。

自由に働ける

扶養から外れてしまえば、前述した「103万円の壁」や「130万円の壁」などを考慮する必要はありません。年間の収入に上限を設定することも不要です。好きなだけ働いたり、好待遇の職場に転職したりすることも可能になります。働くことを通じて、自らを輝かせたいと思う人なら、扶養に入らず自由に働くのも一つの選択です。

扶養から外れるデメリット

扶養から外れるデメリットは、手取り収入が目減りする点が主なものです。本人が税金や社会保険料を支払わなければならなくなるほか、配偶者など扶養者だった人も配偶者控除や扶養控除がなくなり、収入減に見舞われます。具体例としては、住民税・所得税の支払いが必要になる、節税効果がなくなる、世帯収入が減る、健康保険に自身で加入が必要になる、の4点が挙げられます。

住民税・所得税の支払いが必要

前述したとおり、年収が103万円を超えると扶養から外れ、103万円を超えた分に対して所得税を支払わなくてはなりません。住民税も年収100万円を超えると支払い義務が生じます。扶養に入っている間は支払う必要のなかった税金であるため、デメリットと感じる人も多いでしょう。

節税効果がなくなる

節税効果がなくなるのもデメリットです。配偶者が扶養に入っていて、扶養者が配偶者控除や配偶者特別控除を受けていれば、所得税・住民税の課税対象額が小さくなるため、結果として節税効果が得られます。ただし、効果は配偶者が扶養に入っている間だけに限られます。

世帯収入が減る

扶養から外れると、多くの場合は世帯収入の減少につながります。扶養者と配偶者の2人家族を考えた場合、配偶者が扶養に入っていれば、配偶者控除により所得税と住民税の支払い額が抑えられます。社会保険料も、配偶者は支払う必要がありません。配偶者が扶養から外れることになると、扶養者の所得税と住民税は増額され、配偶者も自分で社会保険料を支払うことになります。

健康保険に自身で加入が必要

社会保険の扶養から外れると、被扶養者は自身で健康保険に加入する必要があります。勤め先が加入する健康保険か、国民健康保険のどちらかに入るケースがほとんどです。健康保険料は、健康保険組合や協会けんぽの場合は標準報酬月額に応じて、国民健康保険では前年の所得などで、支払い額が決まります。

健康保険組合や協会けんぽの保険料は、勤め先の企業と折半で支払うのが原則ですが、国民健康保険の場合は、全額を自分で支払います。それまで扶養されていた人にとっては、負担が大きいと感じるかもしれません。

扶養から外れたことを申告し忘れた場合

扶養から外れたことを申告し忘れた場合には、どのようになるのでしょうか。健康保険料や厚生年金保険料など、資格の喪失日にさかのぼって支払う必要があります。国民健康保険に入り忘れていると、医療機関を受診する機会がなければ、未払い期間が長くなり、未払いが多額になる可能性があります。

勤め先の企業が加入する健康保険の被保険者となる場合は、企業が手続きを行うため、申告を忘れる可能性はあまりないでしょう。

健康保険の切り替えをせず、扶養に入っていたときの保険証をそのまま使い続けていると、健康保険組合などから保険者負担分の返還を求められます。この点については前述のとおりです。

税法上の扶養については、確定申告の際に調整・修正するのが基本です。

人事業務を効率化するシステムを提供

扶養から外れる際の手続きは、税法上の扶養と社会保険の扶養に分かれていることや、期日が定められていることなどにより、煩雑であわただしい処理を要します。雇用者側の企業では、給与計算システムによって給与計算、社会保険料に関する月額変更、経費などの申請、データの暗号化・バックアップを自動化でき、煩雑な業務の効率を上げることが可能です。

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社会保険料の基準となる標準報酬月額は、原則として年に1回改定されます。改定後の処理は、給与計算を自動化することで工数を削減できます。従業員数の多い企業ほど、こうしたルーティーンの負担が高まります。給与計算システムを導入すれば、業務効率の向上に加えて、人的ミスの減少も期待できます。

給与計算システムによる自動化のメリットについて、さらに知りたい場合は以下のコラムも参照してください。

関連記事:給与計算はどこまで自動化できる?|自動化のメリット・デメリットをご紹介!

まとめ

扶養に入っていると、社会保険料や所得税の支払いが不要になるなど、手取り収入が増えるメリットがあります。一方で、扶養から外れることで、年収の上限を意識せず自由に働けるほか、老後の年金が増える利点が得られます。どちらを選択するかは本人や家族の自由です。しっかり検討して、扶養から外れると決めた場合は、手続きを忘れないようにしましょう。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。