私立学校における教員の人事評価制度とは?導入目的や課題と対策
2026.05.15
少子高齢化による学生数の減少や学校間の競争激化が進むなかで、私立学校にはこれまで以上に教育の質を高め、組織として魅力の向上が求められています。その実現において重要となるのが、教職員一人ひとりの能力や成果を適切に把握し、育成や配置に生かす人事評価制度です。本記事では、私立学校における教員の人事評価制度の導入が求められる背景や現状、課題とその対策を整理し、制度運用を支える具体的な考え方を解説します。
目次
私立学校で人事評価制度が求められる背景
私立学校で人事評価制度が求められる背景には、少子化による学生確保の難しさがあります。
文部科学省のデータによると、大学・短期大学の約8割を私立大学が占めており、高等学校でも約3割、専修学校・各種学校では9割以上が私立で構成されています。その一方で、私立大学の約6割、私立短期大学の9割以上が入学定員を満たしておらず、収支面でも赤字傾向が目立つ状況です。
また、今後も入学者数は減少が見込まれており、学校間の競争はさらに激しくなると考えられます。こうした環境のなかで、私立学校には個性的で魅力ある学校づくりが求められており、その実現には教育の質の維持・向上が欠かせません。
そのためには、教員一人ひとりの能力を適切に把握し、校務分掌などの配置を最適化することが重要です。少子化のなかでも教育計画や役割分担を適切に行い、教育の質を高めて安定した学校運営につなげるために、人事評価制度が求められています。
私立学校における教員の人事評価制度の実情
私立学校における教員の人事評価制度は、導入が進みつつあるものの、依然として発展途上にあるのが実情です。ここでは、制度の実施状況や導入目的、評価結果の反映先について解説します。
人事評価制度の実施状況
私立学校における人事評価制度の導入状況は、教員と職員で差があるものの、全体としては徐々に広がりを見せています。
下表は、日本私立学校振興・共済事業団の調査をもとに、令和5年と平成30年の調査における人事評価の実施割合を比較したものです。
| 区分 | 令和5年 | 平成30年 |
|---|---|---|
| 大学教員 | 44.4% | 41.9% |
| 大学職員 | 65.3% | 60.5% |
| 短大教員 | 41.3% | 36.7% |
| 短大職員 | 51.9% | 45.8% |
大学・短大ともに職員のほうが人事評価の導入率は高く、教員はまだ過半数に達していない状況です。一方で、平成30年と比較するとすべての区分で実施割合が上昇しており、人事評価制度の導入は着実に進んでいるといえます。
参考:日本私立学校振興・共済事業団「「学校法人の経営改善方策に関するアンケート報告」大学・短期大学法人編 令和5年8月調査」
参考:日本私立学校振興・共済事業団「「学校法人の経営改善方策に関するアンケート報告」大学・短期大学法人編 平成30年4月調査」
人事評価制度の導入目的と効果
私立学校における人事評価制度は、教職員の成長促進や組織運営の改善を目的として導入されており、実際の効果にも一定の傾向が見られます。
まず、令和5年の日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、人事評価制度の導入目的は以下のとおりです。
| 項目 | 大学教員 | 大学職員 | 短大教員 | 短大職員 |
|---|---|---|---|---|
| 教職員の士気向上 | 75.2% | 73.1% | 72.1% | 67.9% |
| 教職員の個人の能力向上 | 71.0% | 79.6% | 66.3% | 70.9% |
| 組織の活性化 | 57.0% | 68.3% | 54.8% | 61.9% |
| コミュニケーションの促進 | 34.6% | 62.0% | 38.5% | 58.2% |
| 考課者の能力開発 | 26.2% | 54.8% | 22.1% | 45.5% |
人事評価の導入目的では、教員では「士気向上」が最も高く、職員では「個人の能力向上」が最も高い傾向にあります。また、職員は「コミュニケーションの促進」や「考課者の能力開発」など、組織運営に関わる要素も重視している点が特徴です。
次に、人事評価制度の導入によって実際に得られた効果は以下のとおりです。
| 項目 | 大学教員 | 大学職員 | 短大教員 | 短大職員 |
|---|---|---|---|---|
| 教職員の士気向上 | 57.2% | 52.6% | 51.5% | 45.0% |
| 教職員の個人の能力向上 | 52.2% | 56.9% | 49.5% | 51.9% |
| 組織の活性化 | 35.3% | 44.0% | 40.4% | 41.2% |
| コミュニケーションの促進 | 30.8% | 57.5% | 36.4% | 55.7% |
| 法人方針の反映 | 30.8% | 38.8% | 31.3% | 32.8% |
| 考課者の能力開発 | 20.4% | 44.3% | 19.2% | 35.9% |
効果を見ると、全体的に目的よりも割合は低くなるものの、傾向自体は概ね一致しています。また、職員では「コミュニケーションの促進」の効果が高く評価されており、人事評価制度が対話の活性化につながっていることがわかります。
このように、人事評価制度は一定の成果を上げているものの、目的に対して十分な効果が発揮されているとはいえません。
参考:日本私立学校振興・共済事業団「「学校法人の経営改善方策に関するアンケート報告」大学・短期大学法人編 令和5年8月調査」
人事評価制度の反映先
私立学校における人事評価制度は、賞与や昇格などの人事施策に反映されています。
下表は、日本私立学校振興・共済事業団の調査をもとに、評価結果の主な反映先と割合を整理したものです。
| 項目 | 大学教員 | 大学職員 | 短大教員 | 短大職員 |
|---|---|---|---|---|
| 給与(手当含む) | 35.6% | 41.5% | 36.2% | 40.7% |
| 賞与 | 56.0% | 62.4% | 69.5% | 66.7% |
| 昇格・昇進 | 56.0% | 80.3% | 58.1% | 76.3% |
| 配置転換・人事異動 | 11.1% | 46.3% | 9.5% | 39.3% |
| 任期付き教職員の再任判定 | 34.7% | 20.6% | 31.4% | 21.5% |
| 反映させていない | 9.7% | 4.5% | 7.6% | 9.6% |
調査結果を見ると、職員では「昇格・昇進」への反映割合が高く、教員では「賞与」や「昇格・昇進」への反映が多く見られ、人事評価制度がキャリア形成に活用されていることがわかります。次いで「賞与」や「給与」といった報酬面への反映も多く、評価結果が処遇に反映される仕組みが一定程度整備されている状況です。
また、職員では「配置転換・人事異動」への反映割合も高く、人材配置の最適化に活用されています。一方で、「反映させていない」とする割合も一定割合存在しており、制度の活用度合いにはばらつきがあることも読み取れます。
参考:日本私立学校振興・共済事業団「「学校法人の経営改善方策に関するアンケート報告」大学・短期大学法人編 令和5年8月調査」
私立学校における人事評価制度の課題と対策
私立学校では人事評価制度の導入が進みつつある一方で、導入率は依然として高いとはいえないのが実情です。ここでは、制度導入・運用における主な課題と、その対策を解説します。
評価基準の作成
人事評価制度の導入において最大の課題となるのが、評価基準の作成です。下表は、日本私立学校振興・共済事業団の調査をもとに、人事評価制度を導入していない、または取りやめた理由を整理したものです。
| 項目 | 大学教員 | 大学職員 | 短大教員 | 短大職員 |
|---|---|---|---|---|
| 考課の基準作成が困難 | 88.2% | 82.9% | 89.6% | 83.3% |
| 評価に対する被考課者からの不満 | 23.6% | 25.3% | 23.0% | 19.3% |
| 評価負担や訓練に対する考課者からの不満 | 15.2% | 19.4% | 14.8% | 13.2% |
| 低い評価をされた者の士気低下 | 13.5% | 17.1% | 15.6% | 15.8% |
| 失敗を恐れることによる積極性の欠如 | 5.9% | 8.8% | 5.9% | 7.9% |
| 連帯感や協調性の低下 | 8.0% | 8.2% | 10.4% | 10.5% |
| その他 | 10.5% | 13.5% | 7.4% | 9.6% |
調査結果を見ると、「考課の基準作成が困難」がいずれの区分でも8割以上と突出しており、制度設計の難しさが最大の障壁となっていることがわかります。
そもそも私立学校は多様化するニーズに応じた特色ある教育・研究が求められるため、教職員の役割や業務内容も幅広く、画一的な評価基準を設定しにくい課題があります。
営利企業とは異なり、教員の業務は成果を数値で捉えにくい点も、評価基準の設計を難しくする要因です。大学においては研究実績について一定の指標で評価できる場合がありますが、教育の成果は画一的に測定しにくく、評価の基準が曖昧になりがちです。その結果、何をどのように評価すべきかが整理されないまま、制度だけが先行して導入されてしまうケースも見られます。
そのため、評価基準を設計する際は、各学校の人事制度や経営戦略を踏まえ、職種や役割に応じた基準を個別に考えることが重要です。
参考:日本私立学校振興・共済事業団「「学校法人の経営改善方策に関するアンケート報告」大学・短期大学法人編 令和5年8月調査」
公平性の担保
人事評価制度の運用においては、公平性の担保も課題のひとつです。
人事評価は不公平感が生じると教員や職員のモチベーション低下につながりやすく、制度そのものへの不信感を招くおそれがあります。
事実、日本私立学校振興・共済事業団の調査でも、人事評価制度を実施しない理由として公平性に関する課題があげられていました。
| 項目 | 大学教員 | 大学職員 | 短大教員 | 短大職員 |
|---|---|---|---|---|
| 評価に対する被考課者からの不満 | 23.6% | 25.3% | 23.0% | 19.3% |
| 評価負担や訓練に対する考課者からの不満 | 15.2% | 19.4% | 14.8% | 13.2% |
こうした不公平感の主な要因は、あいまいな評価基準や自己評価とのズレ、評価者に対する不信感などがあげられます。そのため、評価基準を明確に設定し、組織内に周知することが前提となります。
また、評価の公平性を高めるには、評価プロセスをできるだけ透明化することも大切です。評価項目や評価の流れを事前に共有し、評価後には面談を通じて結果の理由を説明することで、被評価者の納得感を得やすくなります。必要に応じて複数の評価者による確認も取り入れれば、特定の評価者の主観に偏りにくい運用が可能です。
参考:日本私立学校振興・共済事業団「「学校法人の経営改善方策に関するアンケート報告」大学・短期大学法人編 令和5年8月調査」
評価者の育成
人事評価制度の納得感を高めるためには、評価者による公平で適切な評価が不可欠です。そのためには、評価基準の理解や評価スキルを習得するための研修などを通じて、評価者を育成することが求められます。
例えば、中・高等学校では、学年主任や教科主任、教頭などの管理職を評価者とし、評価基準や評価スキル獲得に向けた研修を実施するのが自然な流れです。一方、大学・短期大学では中・高等学校のような明確な上司や部下の関係がない場合も多く、誰が教員を評価するのかが課題となります。
このような場合には、職員や学生による評価を取り入れたり、第三者を含めた評価委員会を設置したりする方法が考えられます。単一の評価データに依存するのではなく、複数の視点から情報を収集し、総合的に判断することが重要です。これにより、評価の公平性と妥当性を高められます。
なお、私立学校における人事管理の問題点や働き方改革については、以下のコラムで解説しているので参考にしてください。
関連記事:私立学校における人事管理の問題点と働き方改革の必要性とは
「ADPS」私立学校法人版が教職員のデータを一元管理

人事評価制度を適切に運用するには、教職員の情報を一元管理し、データに基づいて判断できる環境が重要になります。その実現を支援するのが、「ADPS」私立学校法人版と「Hito-Compass」の選択肢です。
ADPS私立学校法人版は、人事・給与・労務などの業務を統合管理できる人事管理システムです。私学共済や名寄せなど、私立学校特有の業務にも対応しています。業務を「イベント」単位で整理し、フローやマニュアルを共有できるため、事務処理の属人化防止にもつながります。給与明細や申請業務のペーパーレス化にも対応しており、業務効率の向上を支援します。
さらに、人事異動のシミュレーション機能も搭載しており、校務分掌の決定なども効率的に進めることが可能です。これにより、従来は経験や勘に頼りがちだった人員配置を、データに基づいて最適化できるようになり、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
また、Hito-Compassは、人財情報や評価、目標、スキルを一元管理できるタレントマネジメントシステムです。教職員の情報を可視化することで、組織全体の人財状況を把握しやすくなります。MBOや多面評価にも対応しており、評価基準の平準化や納得感のある運用を実現できます。また、スキル管理や1on1機能を通じて、教職員の成長支援やコミュニケーションの活性化にも活用可能です。

両システムを活用することで、人事業務の効率化と評価制度の高度化を同時に実現できます。加えて、評価・配置・育成のサイクルを一体で回せるようになるため、「評価して終わり」ではなく、人材育成と組織力強化に直結する仕組みへと転換できる点が大きなメリットです。
私立学校の人財データを活用し人事評価制度の最適化を図ろう

私立学校における人事評価制度は、少子化による競争環境の変化を背景に、その重要性が高まっています。一方で、評価基準の作成や公平性の確保、評価者の育成といった課題も多く、制度の導入・運用が難しいケースも少なくありません。
こうした課題を解決するためには、教職員に関する情報を一元的に管理し、客観的なデータに基づいて評価を行うことが重要です。人材データを活用することで、評価の透明性や納得感が高まり、適切な配置や育成にもつながります。
人事評価制度を単なる評価にとどめず、組織全体の成長を支える仕組みとして活用していくためにも、データを基盤とした運用を意識し、継続的に見直していくことが求められます。
カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。









































































