人的資源管理(HRM)とは?5つの機能や課題、事例を紹介

2024.12.12

人的資源管理(HRM)とは?5つの機能や課題、事例を紹介

人的資源管理(HRM:Human Resource Management)は、従業員を経営資源とみなし、戦略的に活用する体制を設計して運用することです。人材不足の課題を抱える企業が増えるなか、個々の能力を活かす人的資源管理が注目を集めています。

今回は、人的資源管理(HRM)の持つ5つの機能や課題、企業事例について解説します。

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人的資源管理(HRM)とは?

人的資源管理(HRM)とは?

人的資源管理とは、従業員を経営資源とみなし、戦略的に活用する制度を設計して運用することです。人的資源管理は英語で「Human resource management」と表記され、「HRM(エイチアールエム)」と略される場合もあります。

ここでは、人的資源の概要や、人的資本との違いについて確認していきましょう。

そもそも「人的資源」とは

企業経営において必要とされる経営資源は、以下の4つがあります。

  • ヒト:企業で働く従業員
  • モノ:事務所や土地、社用車など物理的な物
  • カネ:現金や株式、有価証券、売掛金などのお金
  • 情報:データや特許など企業で保有する無形財産

人的資源は、経営資源の中でもっとも重要な「ヒト」に該当する資源です。従業員そのものを指すだけでなく、その人自身の能力やスキル、経験、生み出す価値等も人的資源に含まれます。

人材資源が重要視されているのは、人の存在がなければ「モノ」「カネ」「情報」は有効活用できないと考えられているためです。しかし、管理対象となる従業員には喜怒哀楽といった感情や意思があります。個々が置かれている職場環境でも感情や意思は大きく変わるため、すべての従業員に等しく効果を発揮できる管理手法は存在しないといわれています。

「人的資源」と「人的資本」の違い

人的資源と人的資本の違いは、「ヒト」に対する捉え方です。

人的資源は、企業経営においてもっとも重要視されている経営資源のひとつです。人材そのものを経営資源に位置付け、個人の能力やスキルを最大限に活用します。人的資源として人材を捉える際は、どれくらいの利益を生み出せるかという視点で評価するのが特徴です。

一方、人的資本は従業員の知識やスキルなどの能力を資本として捉えています。企業が投資する資本には「有形資本」と「無形資本」がありますが、人的資源は物理的に形を持たない無形資本に含まれます。人材は、将来的に価値を生み出す投資対象と捉えているのが特徴です。

人的資源管理(HRM)の歴史や注目される背景

人的資源管理(HRM)の歴史や注目される背景

人的資源管理は、19世紀後半に機械技師であるフレデリック・W・テイラー氏が「科学的管理法」と呼ばれる労務管理理論を提唱したことが始まりです。

科学的管理法とは、労働者の生産性を改善する管理手法を指します。1920年代は科学的管理法用いた管理手法が一般的でしたが、さらに生産効率を上げるためにホーソン実験が実施されました。ホーソン実験とは、生産性向上の要因を調査するために実施された実験です。

その実験の結果、生産性の向上には従業員の感情、社内で自然に発生する友好関係が影響していることが判明しました。この実験結果のもと、新たに「人間関係論」が提唱されました。これが、現代で注目されている人的資源管理の基盤となる考え方です。

日本では、1990年代以降に人的資源管理が普及しました。終身雇用制度が崩壊し、グローバル化や働き方の多様化が進む現代において、個人を重視する人的資源管理が注目されています。

人的資源管理(HRM)の目的

人的資源管理(HRM)の目的

人的資源管理の目的は、企業の経営目標を達成するために人材を有効活用することです。

日本は少子高齢化により労働人口減少が急激に進んでおり、人材不足の課題を抱える企業が増えています。このような状況下で経営目標を達成するためには、限られた人材で最大のパフォーマンスを発揮できる環境を整えなければいけません。人的資源管理で従業員一人ひとりの知識やスキルを理解して適切に管理すれば、人材を最大限に発揮できる環境を作れます。

また、経営目標を達成するには、人的資源を活用して業績を上げる必要があります。人材を有効活用するために、人材教育や人事評価、人材配置等を通じて従業員の育成を促進し、個々の能力を上げることも重要です。個々の能力が上がれば、最短での経営目標達成も実現可能です。

参考:企業庁「深刻化する人手不足と 中小企業の生産性革命」

人的資源管理(HRM)の5つのモデルや機能

人的資源管理(HRM)の5つのモデルや機能

人的資源管理には、以下のような5つのモデルがあります。

  • ハーバードモデル
  • ミシガンモデル
  • 高業績HRM(PIRK理論)
  • 高業績HRM(AMO理論)
  • タレントマネジメント

それぞれの概要を確認していきましょう。

1.ハーバードモデル

ハーバードモデルは、従業員の能力や帰属意識を重視して人材管理する手法です。

一方的に指示して従業員を管理するのではなく、協調的な労使関係を築きながら従業員の能力を最大限に引き出していきます。アメリカのハーバード大学で実施された研究をもとに生まれた管理手法で、従業員一人ひとりに丁寧に向き合うのが特徴です。

ハーバードモデルは、以下の4つの機能で構成されています。

  • Employee Influence(従業員の影響)
  • Human Resource Flow(人的資源のフロー)
  • Rewards(報酬システム)
  • Work System(職務システム)

ハーバードモデルは、運用・管理する領域を広く捉えており、主に従業員の心理的側面に重点を置いています。

2.ミシガンモデル

ミシガンモデルは、アメリカのミシガン大学で実施された研究結果をもとにした管理手法です。

人的資源管理は戦略的マネジメントの一部を構成するものであり、経営戦略との整合性を確認しながら実施するべきであると考えています。従来の人事管理と通じる部分はありますが、ミシガンモデルは管理手法の領域を経営戦略まで広げているのが大きな違いです。

ミシガンモデルでは、以下の4つの機能を循環させて効果を高めていきます。

  • Recruitment and Selection(採用と選抜)
  • Performance Monitoring(人材評価)
  • Development and Trainings(人材開発)
  • Rewards(報酬)

これらを循環させることで、個人だけでなく組織全体のパフォーマンス向上を目指します。

同時期に発表されたハーバードモデルと比較すると、ミシガンモデルは従業員と会社の目標が一致することに重点を置いています。

3.高業績HRM(PIRK理論)

PIRK理論は、従業員の帰属意識やモチベーションを高める管理手法です。

PIRK理論は、以下の4つの機能で構成されています。

  • Power(権限の委譲)
  • Information(情報の共有化)
  • Reward(公平な報酬)
  • Knowledge(従業員の知識)

従業員の帰属意識やモチベーションが高まることで、転職の抑止や離職率の低下につながります。帰属意識やモチベーションの向上に効果があるという点においては、次の段落で解説する「AMO理論」と同じですが、重点を置いている対象が異なります。

PIRK要素は「公平性・権限の委譲」、AMO理論は「能力・モチベーション・機会」に重点をおいて設計されているのが特徴です。

4.高業績HRM(AMO理論)

AMO理論は、従業員の帰属意識やモチベーションを高めるための管理手法です。

PIRK理論と考え方は似ていますが、AMO理論は以下の3機能で構成されています。

  • Ability(職務を果たす能力)
  • Motivation(仕事へのモチベーション)
  • Opportunity(能力を発揮できる機会)

能力・モチベーション・機会を向上させることで、組織の持続的競争において優位性を向上できると考えています。AMO理論で効果を出すには、人材育成や仕事へのモチベーションを高める報酬、能力を発揮できる環境や機会を提供することが必要です。

5.タレントマネジメント

タレントマネジメントは、優れた人材を育成して価値のある資源として活用する管理手法です。

タレントマネジメントは人事戦略そのものであり、人材不足やグローバル化、働き方の多様化など変化の激しい時代において重要視されています。企業によって目標や課題が異なるため、人事戦略においても大きな違いが見られます。

ただし、従業員の情報を一元的に集約し、それらの情報を人事異動や人材配置、人材育成など人事戦略に反映していくのが一般的です。タレントマネジメントシステムを導入して人材情報を見える化し、企業独自の人事戦略や分析を行う企業も存在します。

人的資源管理(HRM)と他のマネジメントとの違い

人的資源管理(HRM)と他のマネジメントとの違い

人的資源管理と混同されがちなマネジメント手法には、以下のようなものがあります。

  • 組織マネジメント
  • マイクロマネジメント
  • セルフマネジメント

人的資源管理との違いを確認していきましょう。

人的資源管理と組織マネジメントの違い

組織マネジメントとは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などの経営資源を活用して効率的に組織を運営する管理手法です。組織マネジメントに携わるのは管理職以上の役職で、従業員が最大限の能力を発揮できる環境を提供します。個々に合わせたマネジメントが可能になり、組織全体の生産性向上に寄与します。

これに対して、人的資源管理は4つの経営資源のうち、「ヒト」に着目しているのが特徴です。教育や評価、報酬などを通じて、人的資源を重点的に管理して従業員の能力を引き出し、すべての経営資源の有効活用につなげます。人的資源管理は人材を戦略的に管理するのに対し、組織マネジメントは組織を効率的に運営するといった違いがあります。

人的資源管理とマイクロマネジメントの違い

マイクロマネジメントは、部下の業務を細かく管理して指示を出す管理手法です。短期的な目標達成に効果があるといわれていますが、「上司から部下への過干渉」のようにネガティブな文脈で語られることも多いです。部下が上司の細かい指示に圧力を感じている場合は、仕事へのモチベーションが下がり、業務効率や生産性の低下を招く恐れがあります。

これに対して、人的資源管理は従業員の自主性を尊重して個々のモチベーションを高めることを重視しているのが特徴です。一方的な指示を受けないため、従業員は上司の圧力を感じることなく今やるべきことに集中できます。ただし、人的資源管理を意識しすぎると部下を過剰に管理するマイクロマネジメントに陥るリスクがあるため、正しく運用することが求められます。

人的資源管理とセルフマネジメントの違い

セルフマネジメントは、自分の行動や思考、感情を管理して目標達成や自己実現を図ることです。自らを管理して精神状態や健康状態を安定させ、自分の能力を最大限に発揮するのが目的です。セルフマネジメントで自己管理能力が向上し、効率的かつ効果的に業務を遂行できます。

ただし、セルフマネジメントは従業員のスキルや意識に依存しており、個々ですべてを行うには限界があります。そのセルフマネジメントの弱点を補えるのが、人的資源管理です。人的資源管理により、セルフマネジメントに必要なリソースや支援を提供します。

人的資源管理(HRM)の課題や注意点

人的資源管理(HRM)の課題や注意点

人的資源管理には、以下のような課題や注意点があります。

  • 業績への要因を判断しにくい
  • 企業と個人の対等な関係を保つのが難しい
  • 従業員の主体性が損なわれる可能性がある
  • 思い通りに進行するとは限らない

それぞれの概要を確認していきましょう。

業績への要因を判断しにくい

人的資源管理の課題として、業績への要因を判断しにくいことが挙げられます。人的資源管理は、従業員を人的資源として企業目標達成のために活用します。ただし、組織と人材の因果関係は複雑といわれており、業績が向上した要因を分析しても明確に判断するのが難しいです。

とくに、ミシガンモデルは企業の目標達成を最優先事項としています。企業戦略が働いて業績が向上すれば、その貢献度に応じて人的資源の価値は高まるかもしれません。しかし、業績に影響した人材要因を明確にできないと、従業員の能力開発や適切な評価が難しくなります。

企業と個人の対等な関係を保つのが難しい

人的資源管理は、企業と従業員が対等な関係を保つのが難しいといわれています。対等な関係を築けないのは、人的資源管理は企業戦略が最優先事項であり、その戦略を達成するために人材を活用するためです。はじめから「企業の立場が上」といった構図が生まれてしまいます。

企業優位の傾向が強くなると、従業員は不満の声を上げにくいものです。企業で働く意味を見出せなくなり、転職や退職を考える従業員も現れるかもしれません。とくに、組織と人材の協調的な関係を目指すハーバードモデルでは、企業優位になりやすい傾向があります。

従業員の主体性が損なわれる可能性がある

企業と従業員の間で価値観の相違が生まれると、主体性が損なわれる可能性があります。管理対象が感情・意志を持つ人間であるため、相違がある状態で管理を強めると従業員は不満を感じます。企業優位の状態では不満の声も上げにくいため、「嫌だけれど従うしかない」という心理に陥る従業員は少なくありません。

そのうち、「会社から言われた通りに動こう」という考えが生まれ、徐々に個人の主体性が損なわれていきます。主体的に動けない状況が続くと仕事へのモチベーションが下がるため、業務効率や生産性の低下を招く恐れがあります。最終的に離職につながる場合もあるため、従業員が主体的に働ける環境を作ることが必要です。

思い通りに進行するとは限らない

人的資源管理の課題として、思い通りに進行できるとは限らないことが挙げられます。人的資源管理を実施する対象は、感情・意志を持つ人間です。具体的に指示を出しても従業員が納得していない場合、その通りに実行してくれない可能性があります。

人的資源管理を実施する際、相手が感情・意志を持つ人間であることを忘れてはいけません。思うように進まない場合は、個々に合わせてやり方を変えましょう。ひとつのやり方に固執しすぎると柔軟性が欠けてしまい、人的資源管理の効果を発揮できなくなります。

人的資源管理(HRM)を実践している企業事例

人的資源管理(HRM)を実践している企業事例

人的資源管理を導入する際に参考にしたい事例は、以下の企業です。

  • 日産自動車株式会社
  • セブン&アイグループ
  • サムスン電子株式会社

それぞれの導入事例について詳しく確認しましょう。

事例1.日産自動車株式会社

日産自動車株式会社は、人財を最適に配置して企業全体のパフォーマンスを最大化するためにグローバルタレントマネジメントに取り組んでいます。

2002年以降、日産自動車株式会社は日本人の後継者不足に直面し、日本人ビジネスリーダーの育成強化に着手しました。まず新卒採用を強化し、入社後3年目の従業員からビジネスリーダー候補を発掘します。早期にグローバル環境で成果を上げる経験を付与し、入社5~7年目の従業員からビジネスリーダー候補を選抜します。

40代でビジネスリーダーに着任できるように、「人選」「アセスメント」「育成計画」「フォロースルー」を通した育成を仕組み化しました。キャリアコーチが育成プランを作成して能力開発を支援するなど、人的資源管理を積極的に実施しています。

参考:日産自動車株式会社「日産自動車 日本タレントマネジメントの取組」

事例2.セブン&アイグループ

セブン&アイグループでは、創業理念の「信頼と誠実」をもとに人材育成に取り組んでいます。人材育成に注力しているのは、企業価値向上における源は「人財」にあり、企業が成長するには自ら考えて行動できる人材が必要であると考えているためです。

グループ各社においても、それぞれの事業に適した人材育成を実施しています。2020年には、従業員の能力開発と育成を推進する人財共育部を設置しました。グループ各社の従業員の成長支援施策を後押しし、従業員の能力開発と自律的な学びを支援しています。

たとえば、グループ会社でスーパーマーケット事業を行うヨークベニマルでは、個々の技術や能力、目標を記載した「目標管理カルテ」の運用を開始しました。年に2回、上司と進捗状況を共有して自分の成長を確認し、従業員のモチベーション向上につなげています。

参考:セブン&アイ・ホールディングス「従業員の能力向上支援」

事例3.サムスン電子株式会社

サムスン電子株式会社では、優秀な人材を確保して能力を向上させるために人事体制と能力開発プログラムを運営しています。たとえば、職務成長プログラムでは、従業員が自己啓発に時間を割けるように「オアシス制度」を導入し、継続的に学習できる環境を整えました。

2022年には、学習に集中できるように個人学習や室屋スタジオ、講義室等で構成された「DSエデュセンター東灘(Dong-tan)」を開設しています。積極的に人的資源管理を推進するサムスン電子株式会社は、2023年に米国の経済誌が剪定する世界最高の雇用主評価で4年連続1位となりました。

参考:サムスン電子株式会社「人材育成」

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少子高齢化が急速に進む日本において、経営目標を達成するためには、人的資源管理で限られた人材でもパフォーマンスを発揮できる環境を整える必要があります。なお、人的資源を適切に管理するには、従業員の能力を把握して戦略的な人事計画を立てることが必要です。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
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