時間外労働とは?ルールや上限、残業代の計算方法など解説
2025.03.19

時間外労働とは、労働基準法で定められている法定労働時間(1日8時間以内、週40時間以内)を超えて働くことです。法定労働時間の超過分に関して、企業は割増賃金を従業員に支払う必要があります。今回は、時間外労働の定義や残業代の計算方法等について解説します。
目次
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労働基準法における時間外労働の定義とは

時間外労働とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて働くことです。
時間外労働が発生した場合、企業は従業員に割増賃金を支払う必要があります。法定労働時間を深く理解するには、まず労働基準法における法定労働時間の定義を知ることが重要です。
ここでは、法定労働時間の定義や所定労働時間の違いについて詳しく確認していきましょう。
法定労働時間
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限です。
企業は、原則1日に8時間、1週間に40時間を超えて従業員を働かせてはいけません。法定労働時間を超えて労働するには、労使間で時間外労働協定(36協定)の締結が必要です。なお、時間外労働時間にも上限が設けられています。
また、労働基準法では、休憩時間や休日の規定も定められています。従業員の労働時間が継続して6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。休日に関しては、少なくとも週に1回、4週間を通して4日以上の休みを与えることが規定されています。
法定労働時間と所定労働時間の違い
所定労働時間は、企業が独自に定める労働時間のことです。
始業から終業までの労働時間から、休憩時間を差し引いた時間を指します。原則として、所定労働時間は法定労働時間を超えて設定できません。所定労働時間と法定労働時間を超えた労働は、労働基準法における「時間外労働」にあたります。
所定労働時間と法定労働時間の違いは、以下のとおりです。
法定労働時間 | 所定労働時間 | |
---|---|---|
勤務時間 | 1日8時間以内、週40時間以内 | 企業が独自に労働時間を定める |
残業時間 | 法定労働時間を超えた場合に発生 | 法定内残業・法定外残業に分かれる |
残業代 | 支払い義務がある | 支払い義務がある |
所定労働時間の時間外労働は、所定労働時間を超え法定労働時間までの「法定内残業」と、法定労働時間を超えた「法定外残業」に区別されます。所定労働時間も法定労働時間も、指定の労働時間を超えた場合は残業代を支払わなければいけません。
時間外労働に関するルールと注意点

従業員の労働時間は、労働基準法における法定労働時間を守らなければいけません。
特別の事情で時間外労働が発生する場合には、労働基準法における時間外労働の規定を順守する必要があります。これに違反した場合は、罰則の対象になるおそれがあります。
ここからは、時間外労働に関するルールと注意点について詳しく確認していきましょう。
時間外労働させる場合は36協定の締結が必要
労働基準法における法定労働時間は、1日8時間・1週40時間以内が原則です。
法定労働時間を超えて時間外労働または休日労働させる場合は、労使協定(36協定)を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出なければいけません。36協定は、労働基準法第36条に基づく時間外労働・休日労働に関する協定で、通称「サブロク協定」と呼ばれています。
36協定は、使用者と従業員の代表者が書面による協定を締結しなければいけません。従業員の代表者とは、従業員の過半数で組織する労働組合(過半数組合)、労働組合がない場合は従業員の過半数を代表する方が該当します。
協定では、時間外労働の業務の種類や時間外労働の上限等を決めます。
関連記事:36協定とは?残業時間の上限や新様式についてわかりやすく解説
時間外労働の上限は月45時間・年360時間
2018年6月に労働基準法が改正され、36協定で定める時間外労働に罰則付きの上限が設定されました。時間外労働の上限は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がないかぎり指定時間を超えてはいけません。
臨時的な特別な事情で労使が合意する場合は、以下の条件を満たす必要があります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 複数月の時間外労働と休⽇労働平均が80時間以内
- 月45時間を超えられる限度は年間6か月まで
上記に違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科されます。
時間外労働に伴う割増賃金が必要
従業員に時間外労働させた場合、企業は限度時間を超えた分は25%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければいけません。
たとえば、1時間1,000円で働く従業員が法定労働時間を超えた場合、1時間につき1,250円以上を支払うことが必要です。ただし、1か月60時間を超える時間外労働が発生した場合は、法定割増賃金率が50%以上に引き上げられます。
割増賃金の発生条件 | 割増賃金率 |
---|---|
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1か月45時間・1年360時間等)を超えた | 25%以上 |
時間外労働が1か月60時間を超えた | 50%以上 |
時間外労働に加え、深夜時間まで残業をした場合や休日に深夜時間まで勤務した場合は、深夜手当や休日手当に合わせて割増賃金が支払われます。
時間外労働や休日労働は最小限に留める
36協定を締結した場合でも、時間外労働や休日労働は必要最小限に留めなければいけません。
なぜなら、企業は雇用する従業員に労働契約法第5条の安全配慮義務を負う必要があるためです。長時間労働は、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いとされています。
臨時的な特別の事情がある場合は限度時間を超過して働けますが、従業員の健康・福祉を確保するために、企業はできるかぎり限度時間に近づけるように努めなければいけません。
健康・福祉を確保する措置としては、以下のようなものが挙げられます。
- 医師による面接指導
- 深夜業の回数制限
- 終業から始業までの休息時間の確保
- 代償休日・特別な休暇の付与
- 健康診断
- 連続休暇の取得
関連記事:勤務間インターバル制度とは?罰則の有無や助成金、導入のポイント解説と事例紹介
残業代の支給方法には「固定残業制」がある
固定残業代は、あらかじめ時間外労働時間を決めて定額で支払う制度です。
実際の残業時間が少なくても固定残業代を受け取れるため、従業員の収入の安定に寄与します。残業が固定残業時間を超過した場合も超過分の残業代を支払わなければいけません。
繁忙期と閑散期の差が激しい職種では、労働時間の計算が難しい場合があります。また、変動する残業代に伴って社会保険料や所得税の確認をする必要はありません。
経理担当者の業務負担を軽減させるために、固定残業代が用いられます。
【給与形態別】残業代の計算方法

残業代の計算方法は、時給制や日給制、月給制など給与形態によって変わります。ここからは、給与形態別の計算方法を確認していきましょう。
時給制
時給で働くパートやアルバイト従業員は、法定労働時間を下回ることが多いです。
時間外労働をしても法定内残業になるため、残業代の支給対象外になる場合もあります。ただし、法定労働時間を超えた分に関しては、パートやアルバイト従業員に残業代を支払わなければいけません。時給制の残業代は、時給に割増率と残業時間数を掛けて算出します。
賃金・時間外労働の例
1時間あたりの時給:1,500円
時間外労働:20時間
残業代(時間外労働手当)
1時間あたりの時給 × 割増率 × 残業時間数
1,500円 × 1.25 × 20時間 = 3万7,500円
割増率は、法定労働時間を超えて働いた場合に通常賃金に割増して支払う金額の割合です。大企業・中小企業ともに、時間外労働時間が60時間以下の場合は25%の割増率で計算します。
日給制
日給制は、働いた日数に応じて給与が支払われる給与形態です。
短期間雇用や季節労働者など日雇労働者を雇用する際に採用されています。日給制も法定労働時間を超えた分は、残業代を支払わなければいけません。日給制の残業代は、1時間あたりの賃金に割増率と残業時間数を掛けて算出します。
賃金・時間外労働の例
日給:2万円
所定労働時間:8時間
時間外労働:20時間
1時間あたりの賃金
2万円(日給) ÷ 8時間(所定労働時間) = 2,500円
残業代(時間外労働手当)
1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間数
2,500円 × 1.25 × 20時間 = 6万2,500円
月給制
月給制は、月額で給与を固定する給与形態です。
正社員の給与制度で採用されることが多く、管理職等にも適用されています。月給制でも法定労働時間を超えた分は、残業代を支払わなければいけません。残業代は、1時間当たりの賃金を算出し、それに割増率と残業時間数を掛けて計算します。
賃金・時間外労働の例
月給:30万円
所定労働時間:8時間
年間勤務日数:240日
時間外労働:20時間
1時間あたりの賃金
月給 ÷ (所定労働時間 × 年間勤務日数 ÷ 12か月)
30万円 ÷ (8時間 × 240日 ÷ 12か月) = 1,875円
残業代(時間外労働手当)
1時間当たりの賃金 × 割増率 × 残業時間数
1,875円 × 1.25 × 20時間 = 4万6,875円
なお、割増率は労働条件によって変わります。
労働条件 | 割増率 |
---|---|
時間外労働(60時間以下の場合) | 25%以上 |
時間外労働(60時間を超えた場合) | 50%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
時間外労働+深夜残業 | 50%以上 |
年俸制
年俸制は、1年単位で賃金を計算して従業員に支払う給与形態です。
給与は毎月1回以上の給料の支払いが義務付けられているため、月額制と同様に年俸を分割した金額が毎月支払われます。年俸制でも法定労働時間を超えた分は残業代の支払いが必要です。残業代は、月額賃金から時給を算出し、それに割増率と残業時間数を掛けて計算します。
賃金・時間外労働の例
年俸:500万円
所定労働時間:8時間
年間勤務日数:250日
時間外労働:20時間
1時間あたりの賃金
年俸 ÷ (所定労働時間×年間勤務日数)
500万円 ÷ (8時間 × 250日) = 2,500円
残業代(時間外労働手当)
1時間当たりの賃金 × 割増率 × 残業時間数
2,500円 × 1.25 × 20時間 = 6万2,500円
歩合給制
歩合給制とは、従業員の成績や売上貢献度によって給与が変動する給与形態です。
歩合給制でも法定労働時間を超えて働いた場合は、従業員に対して残業代の支払い義務が生じます。歩合給制の場合、固定給と歩合給で分けて残業代を算出します。
賃金・時間外労働の例
基本給:25万円
歩合給:5万円
月間の所定労働時間:160時間
時間外労働:10時間
時間外労働手当(基本給)
基本給 ÷ 月間所定労働時間 × 割増率 × 残業時間数
25万円 ÷ 160時間 × 1.25 × 10時間 = 1万9,531円
時間外労働手当(歩合給)
歩合給 ÷ 月間の総労働時間 × 割増率 × 残業時間数
5万円 ÷ 170時間 × 1.25 × 10時間 = 3,676円
合計の残業代(時間外労働手当)
1万9,531円 + 3,676円 = 2万3,207円
【勤務形態別】残業代の計算方法

フレックスタイム制や変形労働時間制など勤務形態でも残業代の計算方法は変わります。それぞれの計算方法を確認していきましょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、従業員自身が出社・出勤時間や労働時間を自由に設定できる制度です。
法定労働時間の範囲内で総労働時間を定め、その枠内で従業員が労働時間を調整します。フレックスタイム制の場合、労使協定で定められた清算期間ごとに残業代を精算するのが一般的です。残業代は、給与から1時間あたりの賃金を出し、割増率と残業時間数を掛けて算出します。
賃金・時間外労働の例
清算期間:30日
総労働時間:160時間
実労働時間:200時間
1時間あたりの賃金:2,500円
時間外労働:40時間(200時間 - 160時間)
残業代(時間外労働手当)
1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間数
2,500円 × 1.25 × 40時間 = 12万5,000円
変形労働時間制
変形労働時間制は、繁忙期や閑散期に合わせて労働時間を調整できる制度です。
繁忙期には所定労働時間を長く、逆に閑散期に短く設定することで、法定労働時間を超えないように調整します。変形労働時間制は、時期によって繁閑の差が大きい企業で採用されています。ただし、あらかじめ設定した所定労働時間を超えた場合は残業代の支払いが必要です。
残業代は、1日単位・1週間単位・対象期間単位ごとに時間外労働を計算して合算します。
時間外労働の例
時間外労働(日単位):5時間
時間外労働(週単位):5時間
時間外労働(対象期間):10時間
1時間当たりの賃金:2,500円
時間外労働手当
1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間数
2,500円 × 1.25 × 20時間 = 6万2,500円
裁量労働制
裁量労働制とは、労使間で取り決めた「みなし労働時間」に基づいて給与を支払う制度です。
実労働時間にかかわらず、みなし労働時間分だけ給与が発生します。始業時間や終業時間など労働時間に制限は設けられていないため、個人の裁量で働く時間を管理することが可能です。裁量労働制の場合は、みなし労働時間を基準に残業代を計算します。
時間外労働の例
法定労働時間:160時間
みなし労働時間:200時間
1時間当たりの賃金:2,500円
時間外労働手当
1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間数
2,500円 × 1.25 × 40時間 = 12万5,000円
人事管理システム「ADPS」が労務管理をサポート

残業代の計算方法は複雑で、毎月の計算業務に負担を感じる労務担当者も多いです。
計算ミスにより残業代の未払いが発生した場合、故意でなくても労働基準法に違反するおそれがあります。担当者の業務負担や計算ミス等のトラブルを防ぐには、就業管理や給与計算を自動化できるシステムの導入がおすすめです。
カシオヒューマンシステムズ株式会社では、給与計算や労務管理をサポートする人事管理システム「ADPS」を提供しています。「ADPS」は、就業管理業務を効率化できるシステムです。システム上で申請内容と実績の乖離を確認できるため、適正な勤務管理を実現できます。
また、過度な長時間労働を抑制するための機能も搭載されています。給与計算を効率化し、従業員の長時間労働を抑制し、残業時間の削減効果が期待できるのも魅力です。人事管理システムの導入実績は累計5,000社を超えており、迅速な課題解決に向けて個別の要望にも柔軟に対応しています。
詳しくは、以下をご確認ください。
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まとめ

従業員が法定労働時間を超えて働いた場合、その超えた分の残業代を支払う必要があります。
ただし、残業代の計算方法は給与形態や勤務形態等で大きく変わるため、毎月の計算業務に負担を感じる労務担当者も少なくありません。計算ミスで残業代の未払いが発生した場合は、従業員への信頼を失うだけでなく、労働基準法に違反するにリスクもあります。
労務担当者の業務負担を軽減しつつ、残業代の計算ミスが起きない環境を作りたいなら、人事管理システム「ADPS(アドプス)」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。