ワークライフバランスとは?その意味から実際の取組みや事例まで
わかりやすく解説

働き方が多様化するきっかけの1つにワークライフバランスの定着があります。しかし、実際にどのような観点で取り組むべきかがわからず、従業員側へ意図や制度がきちんと浸透していない というようなことも少なくないのではないでしょうか。
本記事では、ワークライフバランスの定義をはじめ、実現へ積極的に取り組む企業事例を紹介いたします。ワークライフバランスの実現に向けて、ヒントを見つけていただければ幸いです。

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ワークライフバランスとは?その意味と定義

ワークライフバランスとは、『仕事と生活の調和』のことを指します。
この考え方は、性別や年齢などは関係なく、働く従業員すべてに対して適用されます。
国や地方自治体、企業や従業員が一体となってワークライフバランスの実現に取り組むべく、2007年に内閣府より方針が掲げられました。
社会のニーズやさまざまな就業環境、ライフスタイルの変化に応じて、仕事とプライベートのバランスを保っていくことが必要です。
ワークライフバランスを推進するために、企業全体で意味を理解し、浸透させることが重要なポイントになります。

ワークライフバランスの歴史

ワークライフバランスは、アメリカで1980年代後半から1990年代にかけて増加したといわれています。女性の社会進出が進んでいたこともあり、働きながら育児をする女性の負担を軽減し、職場への定着率の向上を高めるため、各企業が自発的に「ワークライフバランス」を提供するようになりました。
日本では官民が一体となってワークライフバランスの実現に取り組むべく、経済界や労働界の有識者から構成される「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」にて「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び 「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定され、その後も厚生労働省や内閣府により、各企業のワークライフバランスの実現に向けた様々な支援が実施され、各企業において取り組みが進んでいます。

ワーク・ライフ・バランス憲章と行動指針とは

前述のとおり、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」は、2007年12月に経済界や労働界の有識者から構成される「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」にて策定されました。
『憲章』は「国民的な取組の大きな方向性を示すもの」、『行動指針』は「企業や働く者等の効果的な取組、国や地方公共団体の施策の方針を示すもの」として定義されています。

「仕事と生活の調和が実現した社会」に必要な3つの条件とは

「仕事と生活の調和が実現した社会」には「仕事」「家庭生活」「地域・個人の生活等」の3項目のバランスが良く優先されていることが重要です。
内閣府では以下の3つが「仕事と生活の調和が実現した社会」に必要な条件として定義されています。

  • 1)就労による経済的自立が可能な社会
  • 2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
  • 3)多様な働き方・生き方が選択できる社会

ワークライフバランス実現の目標数値

上記の3つの条件について、2020年時点での数値目標達成状況の調査が実施されました。
達成状況は2007年の行動指針策定時と比較すると、過労働時間60時間以上の雇用者の割合が半減し、就業率が向上しており、2020年時点では改善されていることが読み取れます。
今後は、年次有給休暇取得率や男性の育児休業取得率など目標未達となっている項目について、制度を確立させるだけでなく、個々の従業員へメリハリをつけた働き方に対する意識づけを行うなど、企業としても力を入れて対応をしていくことが必要です。
参考:内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)総括文書 –2007~2020–

ワークライフバランスが必要とされる理由とは

慢性的な長時間労働や育児・介護と仕事の両立など、仕事と生活の間に問題を抱えて悩んでしまう従業員は多く、将来への不安を増幅させる要因となっています。
また、終身雇用が見直され人材の移動が活発化する中、優秀な人材の離職防止や新規獲得など、企業にとっての課題も多くあります。
こうした従業員の不安要因や企業課題を取り除くために必要なのが、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)を実現させる取り組みです。

企業がワークライフバランスを実現させるための取り組みとは

ここからは、ワークライフバランス実現のために企業ができる具体的な取り組みを、多様な従業員が成長し活躍する会社を実現するため、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる企業A社の施策をもとに紹介します。

取り組み①男性の育児休業取得促進

育児休業期間の経済的負担を減らすため、育児休業開始後5日間は有給として取り扱い、出産の届出があった従業員には制度の案内を文書で送り、休業取得を働きかけています。

取り組み②育児短時間勤務制度

育児休業からの復職後には時短勤務の申請や法定外残業の制限ができる制度が整っており、短時間勤務の定着に繋がっています。

取り組み③育休期間の評価制度

育児休業前後で職務範囲や成果に対する評価が変わることなく働ける仕組みを確立しています。そのため、子育て中の社員でも焦ることなくキャリアアップを目指すことができます。

取り組み④社内託児所

何名預けても月額上限2万円で上限額を超える分は会社負担のため、従業員は金銭的不安なく業務に専念できます。

ワークライフバランスを推進するメリットとは?

ワークライフバランスを推進することで従業員が仕事とプライベートの双方にメリットが生じると考えられますが、企業にとってもメリットがあります。
ここからは、企業にとってどのような効果がうまれるかをご紹介します。

メリット①女性従業員の離職を防止できる

社会全体で女性の社会進出の取り組みが進められている一方で、結婚や子育てなどのライフステージの変化が生じたタイミングで離職してしまう方も一定数いるのが実情です。
ワークライフバランスの推進によって、ライフステージに合わせた環境を提供することで女性従業員の離職防止にも繋がります。

メリット②優秀な人材を確保できる

終身雇用制度が見直され、社会的にも労働人口の減少が問題視されている中、優秀な人材の確保や人手不足の解消が企業課題としてあげられています。
働きやすい環境を提供することで、従業員の意欲低下や離職を防止するだけでなく、新たに優秀な人を雇用する際の契機にもすることができます。

メリット③企業イメージを向上できる

厚生労働省では、労働者の安全や健康を確保するための対策に積極的に取り組み、高い安全衛生水準を維持・改善している企業を認める「安全衛生優良企業公表制度」を設けています。
この制度で認定された際には、ワークライフバランスを推進し、従業員を大切にしている企業と公表することができ、採用活動などの際のイメージアップに繋がることができます。

ワークライフバランスの現状

ワークライフバランスが実現されている企業は理想ですが、現実はまだまだ課題もあります。
2018年に内閣府が実施した調査研究「企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究」の結果では、上記3項目の各個人が優先したい事項(希望)と、実際に優先されている事項(現実)に乖離があるという現状の課題が読み取れます。
参考:内閣府 「企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書
同アンケートでは、個人のワークライフバランスの実現度を調査するため、「仕事」「家庭生活」「地域・個人の生活等」の3項目に関して、「何を優先したいか」と「実際には何が優先されているか」を聴取しました。
その結果、「家庭生活」を優先したいと答えた割合が男女ともに4割弱を占めたのに対し、「仕事」と答えた割合は1割前後となりました。
ところが実際に優先されている項目は、「仕事」が男女ともに5割前後を占めたのです。
ワークライフバランスの希望と実際が不一致に焦点を当てると、正社員男性の6割弱、正社員女性の5割強が「希望と実際が不一致」と回答しており、さらには、ワークライフバランスの希望と実際が一致していない人の8〜9割が「不本意ながら仕事を優先している」と回答していました。
ワークライフバランスの実現は、働き方や職場の環境が大きく関係しています。
従業員は柔軟な働き方を求めているものの、企業は特定の事由に限り働く場所や時間といった、限られた範囲の中でしか柔軟に対応していない実情があります。
従業員が求める柔軟な働き方を実現するには、特定の事由に限定することなく、全従業員のそれぞれの事情に応じた働き方を推進する取り組みが必要です。

ワークライフバランスの課題とその解決策

ここからは、ワークライフバランス推進にあたっての課題と、その解決策について説明します。

課題①推進方法が不明瞭

ワークライフバランスの重要さは理解していても、実際にどのような取り組みから着手していけばよいのかがわからず、なかなか実施に至らないといったケースも挙げられます。
はじめから施策を検討するのではなく、前もって自社や各従業員がどのような課題を抱えているのかを調査・分析し、費用やスケジュールを試算することが必要です。

課題②評価や管理の方法

多様な働き方を認めることで、従業員は働きやすくなる分、企業はこれまでの評価や管理体制の見直しが求められます。齟齬や不満を最小限に抑えるためにも、どのような観点で評価をするか・組織として管理をしていくか、といった点を従業員へも周知したうえで、推進していくことがおすすめです。
また、評価システムを導入することで、就業時間や場所が異なっていても、対応しやすい環境を構築することもできます。

課題③企業文化との親和性

業界や業種によっては、根付いている企業文化が強く、なかなかワークライフバランスの取り組みにすぐ適応できる環境でない場合もあります。
しかし、人材の出入りの加速化やパンデミックへの対応など、常に状況は変化しています。
企業文化に即しつつも、変化に適応しながらワークライフバランスを推進していくことが必要です。

ワークライフバランス推進の企業事例を紹介

取り組み①仕事と介護の両立支援

B社は、多様な人材を尊重しそれぞれの強みを活かす、ダイバーシティを推進している企業です。
高齢者人口の増加とともに介護認定者が増加し、突発的に発生する介護は期間等の先が読めないことから、仕事との両立が困難と考え、介護に関する制度の充実や、情報提供のセミナーを定期的に開催しています。
仕事と介護の両立支援として、同社は以下の取り組みを行なっています。

・仕事と介護の両立支援セミナー

社内外のさまざまな制度に関する情報を提供し、介護と両立して仕事を続けられるよう支援しています。
また、介護サービスに関する情報を社内サイトに記載し、情報発信をしています。

・介護休暇

法廷では通算93日までとされていますが、同社では1年間の介護休暇取得できる仕組みを整えています。

・介護勤務

短時間勤務や始業就業時刻の変更は3年まで可能とし、柔軟な働き方を認める環境をつくっています。

取り組み②仕事とがん治療の両立支援

C社は、「健康経営」を率先して進めており、ワークライフバランスの実現には、病気治療中の従業員就労支援も必須事項と認識しています。
仕事とがん治療の両立支援として、同社は以下の取り組みを行っています。

・休暇の充当

時効により失効した有給休暇をがん治療時に使用できます。
また、欠勤扱いとならない無給休暇があり、次年度の有給休暇に影響しない休暇を取ることが可能です。

・短時間勤務

1日の就業時間を最大2時間短縮可能で、時差勤務にも対応しています。
各個人の生活スタイルにあった働き方を選択することができます。

・健康経営の実施

健康に関する社内セミナーやがん検診、人間ドッグ、禁煙外来の受診補助を行い、従業員や配偶者を対象とした乳がん検診の啓発など、健康改善・促進を支援しています。

ワークライフインテグレーションとは?

ワークライフバランスと似たような言葉に「ワークライフインテグレーション」があります。
ワークライフインテグレーションとは、仕事とプライベートの生活をそれぞれ別物として考えるのではなく、統合させてとらえることで両方を充実させるという考え方です。
仕事もプライベートも人生の一部であるため、双方を充実させることで人生そのものが豊かになり、相互に好影響を与えることができると考えられ、慶応義塾大学の高橋俊介教授や経済同友会によって提唱されました。

ワークライフバランスとの違い

「ワークライフバランス」が仕事とプライベートを切り分け、それぞれのバランスを保ちながら働くという考えに対し、「ワークライフインテグレーション」は、仕事もプライベートも統合し、双方を充実させるという考え方になるため、ワークライフバランスの発展した考え方がワークライフインテグレーションであるとも言えます。
仕事なのか、プライベートなのかを優先立てて考えるのではなく、仕事もプライベートもどちらも連動させていくことで、より多様で柔軟な働き方を実現することができます。
2019年には厚生労働省が働き方改革に関する法案を発表されるなど、働き方改革が加速化する今、ワークライフバランス以上に昨今注目の集まっている考え方がワークライフインテグレーションです。
自社の現状を鑑みながら、ワークライフバランスを先行して取り組むのか、ワークインテグレーションまで発展させて取り組んでいくか適切な判断が必要になります。

まとめ

ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和であり、ワークライフバランスを実現するためには、従業員一人ひとりの事情に応じた働き方の推進が求められます。
育児や介護、病気治療に直面した従業員は、仕事との両立に不安を抱えてしまいかねず、従業員が安心して仕事に取り組むには、企業側の柔軟な支援が欠かせません。
本記事で紹介した実際の企業事例をヒントに、今一度ワークライフバランスの実現に向けた取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
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