コンピテンシー評価とは?項目例やメリット、導入の流れを解説

2024.04.25

コンピテンシー評価は、高い業務成果を生み出す人材に共通する行動特性を評価基準として評価する方法です。具体的な基準のもとで公正な評価ができるため、企業から大きな注目を集めています。今回は、コンピテンシー評価の特徴や効果、導入の手順について解説します。

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コンピテンシー評価とは?他の評価との違い

コンピテンシー評価は、高い業務成果を生み出す人材に共通する行動特性を評価基準として評価する方法です。今なお多くの企業で採用されている能力評価では、人事評価者の主観が評価に影響を及ぼすことがありました。その一方で、コンピテンシー評価は具体的な評価基準を設定して対象者を評価するため、人事評価の不公平感を解消しやすい特徴があります。

コンピテンシー評価の概要や、能力評価との違いを確認していきましょう。

コンピテンシーはハイパフォーマーに見られる行動特性

コンピテンシー(Competency)は、高い業務成果を生み出す人材に共通する行動特性のことです。コンピテンシーは、具体的な行動そのものに注目するのではなく、行動の基盤となる思考や価値観などを重要視する点が特徴です。英語では「能力」「適正」などを意味しますが、ビジネスの場では業務で優れた業績や、成果を生み出す個人の行動特性を指します。

「業務中に意識していること」や「どのような理由で行動をしているのか」など、優秀な人材の思考法や価値観などを分析してコンピテンシーを明確にしていきます。分析結果をもとに評価項目や評価基準を設定することで、各従業員の能力や適性を客観的に評価することが可能です。ただし、業務内容で求められる成果は異なるため、一般的には職種や役割ごとに設定されます。

コンピテンシー評価と職務資格制度(能力評価)との違い

近年注目を集める「コンピテンシー評価」とは別に、今なお多くの企業で採用されている人事評価に「職務資格制度(能力評価)」があります。従業員を評価する点においては同じですが、評価基準や導入効果に違いがあります。

コンピテンシー評価 職務資格制度
評価基準 行動特性 業務に関する知識や能力、スキル
導入効果
  • 評価基準が具体的で、評価の公平性を担保しやすい
  • 効率的、かつ戦略的な人材育成が可能
  • 戦略的な人材マネジメントをおこなえる
  • 多角的な視点を持つ人材を育成しやすい
  • 長期的な視点での人材育成に適している
  • 異動や組織改編をおこないやすい

コンピテンシー評価では、高い業務成果を生み出す人材に共通する行動特性を分析して具体的な基準を設けます。一方、職務資格制度は、責任感や協調性、積極性など曖昧な評価項目が設定されているため、人事評価者の主観が入りやすく、人材評価が抽象的になりがちです。

コンピテンシー評価が求められる背景

コンピテンシー評価が注目される背景には、以下のようなことが考えられます。

  • 人件費の高騰
  • 年功序列制度によるモチベーションの低下
  • 不公平感を生む曖昧な評価基準

それぞれの背景について詳しく解説します。

人件費の高騰

多くの企業で採用されている能力評価では、勤務年数に比例して給与を上げる必要があります。勤続年数が長い従業員の割合が高い企業は、年々従業員一人当たりの給与が高くなるため、人件費高騰の課題に直面しているのが現状です。また、能力評価の基準は、責任感や協調性、積極性などが曖昧になりがちです。仕事の成果とは関係のない給与設定になることも多くあります。

このような評価方法は従業員の不満につながり、離職の可能性を高める原因になりかねません。コンピテンシー評価を導入することで、成果を重視した人事評価が可能になります。また、給与は成果や能力に基づいて設定できるため、人件費の削減も可能です。評価基準も明確であるため、従業員の納得度が高まることもコンピテンシー評価を導入する利点といえます。

年功序列制度によるモチベーションの低下

年功序列制度は、業務に関する知識に加え、責任感や協調性など職務経験を通じて身につく能力やスキルを評価する制度です。年功序列や勤務年数を重視する評価制度では、従業員の努力や業績が人事評価に反映されにくい傾向があります。仕事の成果が給与に反映されないと、従業員のモチベーションを低下させてしまうおそれがあります。

コンピテンシー評価は、高い業務成果を生み出す人材に共通する行動特性を洗い出し、明確な評価基準のもと従業員を評価することが可能です。仕事の成果を重視して公正に評価できるため、人事評価に対する従業員の満足度が上がります。人材不足に直面する企業も多いため、人材の定着率を向上させる対策としても有効です。

参考:厚生労働省「第3節 限られた人材の活躍に向けた 企業・労働者の課題」

不公平感を生む曖昧な評価基準

能力評価は評価基準が曖昧で、人材評価が抽象的になる傾向です。ジェネラリストの育成に適した制度ではあるものの、勤務年数が長い従業員ほど高い評価を受けやすくなり、人事評価者の主観に左右されることが多いため評価の公平性を担保しにくくなります。従業員の不公平感を生み出し、仕事への意欲の低下や離職につながる恐れもあります。

近年は人材の流動が活発化しており、会社に不満があると転職を考える従業員も少なくありません。従業員の人事評価に対する不公平感を解消するためには、評価基準に基づいた公正な評価が求められます。明確な評価基準を設定するコンピテンシー評価を導入することで、仕事の評価における従業員の不公平感を解消することが可能です。

参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年6月分)について」

コンピテンシー評価による3つのメリット

コンピテンシー評価の導入で期待できるメリットには、以下のようなものがあります。

  • 人事評価に公平性が生まれる
  • 効率的な人材育成により業績アップが期待できる
  • 人事評価業務の負担が軽減される

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

1.人事評価に公平性が生まれる

コンピテンシー評価は、明確な評価基準を設定します。人事評価者の主観が入り込む余地はなく、評価のばらつきを抑えられるため、公平性の高い評価が実現可能です。人事評価に公平性が生まれると、従業員の満足度が高まり、会社に貢献したいと思う意欲を高められます。

また、人事評価者は評価のフィードバックを論理的に説明することが可能です。従業員は、「どのような行動特性を評価されたのか」や「どのような行動が評価されなかったのか」を理解しやすくなります。今後改善すべき課題も明確になるため、従業員の成長を促進できます。

2.効率的な人材育成により業績アップが期待できる

コンピテンシー評価は、高い業務成果を生み出す人材に共通する行動特性が評価基準です。従業員は、どのような行動特性が高い評価や高い成果につながるのかを理解できます。目指すべき方向性を定めやすくなるため、効率的な人材育成が可能です。

人材育成で各従業員の能力やスキルが向上すれば、企業の業績向上が期待できます。また、コンピテンシー評価は職種や役割ごとに評価基準を設定することが基本であり、専門性の高い従業員ほど高評価を得やすいです。高い評価を受けるために、自主的に専門性を高める従業員が増えるため、即戦力人材も育成しやすくなります。

3.人事評価業務の負担が軽減される

コンピテンシー評価を導入することで、人事評価者の業務負担を軽減できます。コンピテンシー評価は明確な評価基準を設定しているため、人事評価者は「従業員が設定したコンピテンシー項目を満たす行動ができているか」で評価することが可能です。

また、評価基準に基づいて指導できるため、計画的なマネジメントが可能になります。さらに、従業員の成長を具体的に把握し、強みを活かすポジションや部署への配置も可能です。企業の方針や理想に応じて人事計画を立てる際にも役立ちます。

コンピテンシー評価による2つのデメリット

コンピテンシー評価を導入する際は、メリットだけでなくデメリットも把握したうえで検討することが大切です。コンピテンシー評価のデメリットには、以下のようなものがあります。

  • 評価導入時の負担が大きい
  • 事業フェーズの変化に対応しにくい

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

1.評価導入時の負担が大きい

コンピテンシー評価は、独自のコンピテンシーを定義したり評価基準を策定したりする必要があり、導入に向けた負担が大きいです。とくに、コンピテンシーモデルを作成する段階では、多くの時間と手間がかかります。コンピテンシーモデルとは、仕事で成果を上げる従業員の行動特性を洗い出して「理想の従業員像」を策定することです。

本格的に導入する場合は、部署や職種、役職ごとにコンピテンシーモデルを作成しなければいけません。コンピテンシーモデルを適切に設定しなければ、従業員の不満を生み、仕事の意欲を低下させる原因になる可能性もあります。コンピテンシーモデルの作成以外にも、評価項目の設定や人事評価者の教育など、コンピテンシー評価をうまく運用するためのシステム構築も必要です。

2.事業フェーズの変化に対応しにくい

評価基準が明確に細分化されているコンピテンシー評価は、事業フェーズの変化に対応しにくい傾向があります。企業を成長させるには、事業フェーズに応じてコンピテンシーを改定したり、新たなモデルを開発したりしなければいけません。とくに変化の多い企業は、同じ評価基準では公正な評価はできないため、改善が求められる頻度が増えます。

公正な評価ができない状態では、従業員の評価に対する満足度や仕事への意欲が低下する可能性があります。これらのリスクを回避するには、事業フェーズに応じて改善することが重要です。しかし、評価基準の見直しにはコンピテンシー評価の導入時と同じくらい時間や手間がかかります。コンピテンシー評価の導入は、運用の難易度が高い評価制度といえます。

コンピテンシー評価の具体的な項目例

コンピテンシー評価の項目は、部署や職種、役職ごとに独自で設計することが必要です。具体的な項目例には、以下のようなものがあります。

  • 第一印象
  • 情報処理能力・提案力
  • 目標への取り組み度・チャレンジ精神

それぞれの手順について詳しく解説します。

第一印象

コンピテンシー評価の項目に、「第一印象度」があります。第一印象度とは、初対面の相手に与える印象の質のことです。初対面の相手に対して無意識的に抱く印象は、その後の関係性やコミュニケーションに大きな影響を与えることがあります。顧客や取引先から信用されるビジネスパートナーを構築するには、第一印象度が高いことが必要不可欠です。

第一印象度が高いと評価されるのは、初対面の相手に対して好印象を与えられる適切な態度や言動をおこなえる人です。とくに、販売職や営業職など顧客と直接接する機会が多い職種は、高い第一印象度が求められます。第一印象度を評価する項目例には、清潔感のある服装や不快感を与えない身だしなみや社会人としてのマナーなどがあります。

情報処理能力・提案力

コンピテンシー評価の項目に、「情報処理能力・提案力」があります。情報処理能力は、膨大な情報の中から状況や目的に応じて情報収集し、適正に活用できる能力のことです。基本的には、組織内の情報共有が必要な管理職や幹部候補に求められます。情報処理能力を評価する項目例として、情報収集力や情報整理力、情報発信力などが挙げられます。

提案力は、相手の悩みや課題を理解して問題を解決するための提案をしたり、集めた情報を正確に伝えたりする能力です。顧客や取引先、組織内でのコミュニケーションを円滑に進めるには高い提案力が必要です。顧客や取引先と接する機会が多い職種や、社内コミュニケーションが多い職種に求められます。提案力を評価する項目例には、分析や洞察力、表現力などがあります。

目標への取り組み度・チャレンジ精神

コンピテンシー評価の項目に、「目標への取り組み度・チャレンジ精神」があります。目標への取り組み度は、業務目標に向け前向きに取り組んでいるかを評価する指標です。企業に利益をもたらす高い目標を設定しても、目標達成への強い執着心がなければ達成は困難になります。

チャレンジ精神は、苦手な分野や未経験の物事にも積極的に挑戦しているかを評価する指標です。チャレンジ精神が高い人は、多様な物事に興味を持ち、常に高いアンテナを張っています。時代や社会の変化にいち早く気づき、新しいビジネスやアイデアを創出することが可能です。評価項目にチャレンジ精神を加えることで、従業員の挑戦心を育めます。

コンピテンシー評価の導入手順

自社に応じた評価項目を設定し、良い結果につなげるためには、専門チームを立ち上げて運用していくことが大切です。コンピテンシー評価の導入は、以下のような手順になります。

  • コンピテンシーモデルの開発推進チームを立ち上げる
  • コンピテンシーディクショナリーを確認する
  • コンピテンシーモデルを洗い出す
  • 具体的な評価項目を設定する
  • 設定した評価項目を明文化する
  • 定期的に実施内容を振り返る

それぞれの手順について詳しく解説します。

1.コンピテンシーモデルの開発推進チームを立ち上げる

コンピテンシーモデルの作成や評価項目の設定などさまざまな作業が発生するため、コンピテンシー評価の導入には多くの時間と工数がかかります。人事担当者が通常業務と並行しながら、コンピテンシー評価の導入準備を進めることは困難です。

コンピテンシー評価の導入を目的とした専任の開発や推進チームを結成しましょう。コンピテンシーモデルの開発は難易度の高い作業になるため、メンバーは部門責任者やマネージャーなど各部門で重要な役割を担う従業員を選定することがおすすめです。

2.コンピテンシーディクショナリーを確認する

専任チームを立ち上げたら、コンピテンシーディクショナリーを確認しましょう。コンピテンシーディクショナリーは、優秀な人材の行動特性を洗い出す際に参考になるものです。以下のとおり、コンピテンシーは6領域・20項目に分類されています。

コンピテンシーの領域 コンピテンシーの項目
達成・行動 達成思考
秩序・品質・正確性への関心
イニシアチブ
情報収集
援助・対人支援 対人理解
顧客支援志向
インパクト・対人影響力 インパクト・影響力
組織感覚
関係構築
管理領域 指導
他者育成
チームワークと協力
チームリーダーシップ
知的領域 分析的志向
概念的志向
技術的・専門職的・管理的専門性
個人の効果性 自己管理
自信
柔軟性
組織コミットメント

コンピテンシーディクショナリーは、さまざまな業種に活用できるよう、統括的に設定されています。コンピテンシーディクショナリーの項目を参考に、自社の企業戦略や経営方針に応じて大まかな領域と項目案を作成していきましょう。

3.コンピテンシーモデルを洗い出す

高い業務成果を生み出せる人材の行動特性を、コンピテンシーモデルとして洗い出します。どのような行動特性があるのか、対面でインタビューしたり勤務の様子を観察したりして調査を実施しましょう。社内に参考となる該当する人材がいない場合は、理想型モデルを設定する方法があります。

会社が理想とする人物像をつくり、その行動特性を考えてコンピテンシーモデルとして設定します。理想型モデルを設定するときは、結果だけでなく、「なぜそのような行動をしたのか」という思考パターンも考慮することが大切です。

4.具体的な評価項目を設定する

対面でインタビューや勤務の様子を観察してコンピテンシーを洗い出したら、評価項目を設定しましょう。評価項目を設定するときは、自社の企業戦略や経営方針と照らし合わせながら、高い業務成果が見込める内容を選定することが大切です。

評価項目の設定で迷うときは、コンピテンシーディクショナリーを参考にしてみてください。評価項目と合わせて評価基準も決定します。ただし、現実離れした難易度が高い評価基準を設定すると、従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。

5.設定した評価項目を明文化する

コンピテンシーは、3~5段階程度のレベルを設定することがおすすめです。達成度や習熟状態などは、人事評価者が評価しやすいようにレベル分けしましょう。コンピテンシーのレベルを明文化することで、評価の公平性を保てます。

また、評価項目や評価基準が明確であることは、コンピテンシー評価の利点です。評価項目や評価基準は、社内に正確に周知しましょう。これらの情報を社内で共有しておけば、制度導入について従業員の理解が得られやすくなります。

6.定期的に実施内容を振り返る

コンピテンシー評価を導入したあとは、変化する会社の状況に評価制度の内容が適しているか、定期的に実施内容を振り返ることが大切です。設定した評価項目や評価基準は、状況に応じて内容をアップデートしなければ評価制度の効果が弱まります。

基本は1年に1回の頻度で、各従業員に当てはめながら評価項目や評価基準に問題がないかを検証しましょう。評価制度と会社の状況に乖離がある場合は、評価項目や評価基準を改善していきます。検証や改善は、社内アンケートを実施することが有効です。

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まとめ

コンピテンシー評価は、高いレベルの業務成果を生み出す人材に共通する行動特性を洗い出し、具体的な評価基準を設けることが特徴です。明確な評価基準を設定するため、評価の公平性を保てたり、評価業務の負担が軽減されたりするなど多くの利点があります。ただし、コンピテンシー評価は一度導入したら終わりではありません。

評価制度の内容が現在の会社の状況に適しているか、評価項目や評価基準の検証・改善を定期的におこなうことが必要です。検証次第では、評価項目や評価基準の再設定が必要になることもあります。これらの業務負担を軽減したいなら、クラウド型人財マネジメントソリューション「Hito-Compass」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
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定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。