健康保険料の計算方法は?社会保険料とまとめて解説
2024.04.11
健康保険料を計算するにあたって、標準報酬月額を使います。標準報酬月額とは、毎月の給与などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分したものです。
本記事では、健康保険料や標準報酬月額の概要について説明した上で、計算時の注意点について詳しく解説します。
目次
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健康保険料とは
健康(医療)保険料とは、会社員のように民間企業に勤めている人とその家族が加入する公的な医療保険制度に支払う金額のことです。健康保険料を、社会保険料のひとつに分類することがあります。
なお、職場の健康保険の加入者や、後期高齢者医療制度の対象者などを除く人が支払う保険料は国民健康保険料です。今回の記事では、国民健康保険料ではなく、健康保険料を中心に解説しています。
社会保険料とは
社会保険料とは、労働者の病気・老後・介護・労災などに備えた制度(社会保険)を維持するために納付する金額のことです。企業や労働者に関係する社会保険として、以下の5つが挙げられます。
- 厚生年金保険(料)
- 健康保険(料)
- 介護保険(料)
- 雇用保険(料)
- 労災保険(料)
厚生年金保険料とは、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」制度に支払う保険料です。厚生年金には、老齢時に受け取る「老齢厚生年金」や障害の状態になった際に受け取る「障害厚生年金」、遺された家族が受け取る「遺族厚生年金」があります。
健康保険料は、「健康保険」制度に支払う金額です。健康保険に加入していることで、被保険者や被扶養者の病気・ケガ・出産・死亡時に保険給付を受けられます。
介護保険料とは、介護が必要になった人がより少ない負担で介護サービスを受けるための「介護保険」制度に支払う保険料です。健康保険に加入中の40歳から64歳までの対象者が、健康保険料とあわせて介護保険料を納めます。
雇用保険料とは、労働者の生活および雇用の安定と、就職の促進のための「雇用保険」制度に支払う保険料です。失業した際や、教育訓練を受ける際に、失業給付などが支給されます。
労災保険料とは、「労災保険」制度のために全額事業主が支払う保険料です。労災保険とは、業務上もしくは通勤時に労働者が負った傷病などに対して必要な保険を給付し、被災労働者の社会復帰の促進などを進める制度を指します。
各社会保険の分類を以下の図にまとめました。
図からわかるように、年金保険(厚生年金保険)・医療保険(健康保険)・介護保険の3つを「狭義の社会保険」に分類し、労働保険(雇用保険と労災保険)を加えたものを「広義の社会保険」と区別することがあります。
関連記事:産休手当(出産手当金)の計算方法は?支給条件や時期、申請忘れの場合について紹介
健康保険料の支払いの仕組み
健康保険料は、事業主(会社)と被保険者(従業員)で折半します。健康保険料支払いの流れは、以下のとおりです。
- 事業主(会社)が、被保険者(従業員)に支払う給料から被保険者負担分の保険料を引く
- 事業主負担分と、給料から引いた被保険者負担分をあわせて保険者に納付する
保険者とは、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合のように健康保険を運営する主体のことです。
健康保険組合の場合、健康保険料は全国の健康保険組合が共同で実施する共同負担事業などの財源確保を目的とした「調整保険料」と「一般保険料」で構成されています。一般保険料とは、保険・福祉事業に使う「基本保険料」と高齢者医療制度への支援金として使用する「特定保険料」のことです。
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健康保険料の計算方法
毎月の健康保険料を計算する際の計算式は、以下のとおりです。
●健康保険料 = 標準報酬月額(賞与時には標準賞与額) × 健康保険料率
健康保険料率は、都道府県や各健康保険組合によって異なります。
たとえば、東京都で協会けんぽに加入している場合、2023年3月分からの健康保険料率は10%です。そのため、標準報酬月額が22万円の従業員の健康保険料は2万2千円(22万円 × 10%)と計算できます。
また、会社と従業員で健康保険料を折半するため、それぞれの負担額は1万1千円です(2万2千円 ÷ 2)。協会けんぽの場合、計算しなくても対象の表を見れば、健康保険料の全額と折半額を確認できます。
今回は、東京都の協会けんぽの例で計算しました。実際に計算する際は、協会けんぽで該当する都道府県のページや、対象の健康保険組合に保険料率を確認してください。
参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)」
その他社会保険料の計算方法
社会保険料の種類によって、保険料の計算方法が異なります。ここから、健康保険料以外の計算方法を確認していきましょう。
厚生年金保険料の計算方法
毎月支払う厚生年金保険料の計算方法は、以下のとおりです。
●(毎月の)厚生年金保険料額 = 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率
厚生年金保険料率は2017年9月を最後に引き上げが終了したため、18.3%で固定されています。たとえば、標準報酬月額が22万円の従業員の厚生年金保険料は40,260円(22万円 × 18.3%)です。
また、厚生年金保険料も会社と従業員で折半のため、今回のケースではそれぞれ20,130円ずつ負担することになります(40,260円 ÷ 2)。金額は、計算せずに厚生年金保険料額表でも確認できます。
なお、賞与が出た際は「標準賞与額 × 厚生年金保険料率」で賞与の保険料額も計算しなければなりません。
参照:日本年金機構「保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)」
介護保険料の計算方法
毎月の介護保険料を計算する際の計算式は、以下のとおりです。
●介護保険料 = 標準報酬月額(賞与時には標準賞与額) × 介護保険料率
介護保険料率は、協会けんぽや各健康保険組合によって異なります。2023年3月分からの協会けんぽの介護保険料率は、1.82%です。そのため、標準報酬月額が22万円の従業員の健康保険料は4,004円(22万円 × 1.82%)と計算できます。
また、会社と従業員で健康保険料を折半するため、それぞれの負担額は2,002円です(4,004円 ÷ 2)。協会けんぽの場合、健康保険料に関する表の「介護保険第2号被保険者に該当する場合」を見れば、健康保険料と介護保険料をあわせた額を一目で確認できます。
なお、介護保険第2号被保険者とは、40歳から64 歳までの医療保険加入者のことです。
参照:全国健康保険協会 協会けんぽ「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算方法は、以下のとおりです。
●雇用保険料 = 総支給額 × 雇用保険率
雇用保険料の場合、会社と従業員で負担額が異なります。2023年度に一般の事業に該当する業種の場合、事業者(会社)負担の雇用保険率は0.95%(9.5/1,000)、労働者(従業員)負担の雇用保険率は0.6%(6/1,000)です。
たとえば、給与支給額が30万円の場合(一般の事業)、会社負担の雇用保険料は2,850円(30万円 × 0.95%)、従業員負担の雇用保険料は1,800円(30万円 × 0.6%)と計算できます。
労災保険の計算方法
労災保険料の計算方法は、以下のとおりです。
●労災保険料 = 総支給額 × 労災保険率
労災保険率は、業種によって異なります。たとえば、2023年7月現在、小売業の労災保険率は0.3%(3/1,000)です。
1年間に従業員に支払う賃金総額が400万円の場合、年間の労災保険料は1万2千円です。労働保険料については、従業員負担はなく、全額会社(事業主)が負担します。
なお、雇用保険率と労災保険率を足した数字を総支給額にかけて、「労働保険料」を算出することもあります。
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社会保険料の計算で使用する標準報酬月額とは
狭義の社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険)の保険料を計算する際に、「標準報酬月額」を使用します。ここから、標準報酬月額の概要を確認しておきましょう。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、毎月の給与などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分したものです。健康保険や介護保険は第1級の5万8千円から第50級の139万円までの50等級、厚生年金保険は1等級(8万8千円)32等級(65万円)までの32等級に区分されています。
たとえば、健康保険料を計算するにあたって報酬月額が23万7千円の場合、「23万円以上〜25万円未満」に該当するため、標準報酬月額は19等級の24万円です(東京都、協会けんぽ)。厚生年金保険の場合も同様に、「23万円以上〜25万円未満」に該当するため、標準報酬月額は24万円となります(ただし、16等級の場合)。
参照:全国健康保険協会 協会けんぽ「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
標準報酬月額が決定する時期
基本的に、標準報酬月額は毎年7月以降にその年の4月・5月・6月の報酬月額を平均して決めるものです。このように、標準報酬月額を毎年定期的に見直す方法を定時決定と呼びます。
定時決定で決めた標準報酬月額を使用するのは、その年の9月から翌年8月までです。支払日数が17日未満の月がある場合は、その部分が標準報酬月額の計算から除かれます。
標準報酬月額が年度途中で変わる場合-随時改定とは?
標準報酬月額は、定時決定以外に随時改定で決めることもあります。随時改定とは、一定の条件を満たす際に、不定期に標準報酬月額を見直す決め方です。
以下の条件を満たす場合に、随時改定が実施されます。
- 昇給や降給などで固定給が変動している
- 変動前後で標準報酬月額に2等級以上の差がある
- 変動月以降、3か月間連続で支払基礎日数が一定基準を超過している
3つすべての条件を満たすと、随時改定で定時決定のタイミングより前に標準報酬月額が変更されます。
社会保険料を計算するときの注意点
社会保険料を計算するときの注意点は、以下のとおりです。
- 残業時期によっては社会保険料が異なる場合がある
- 社会保険料率は改定されるものがある
- 賞与も社会保険料の対象となる
それぞれ解説します。
残業時期によっては社会保険料が異なる場合がある
残業時期によって、今までと社会保険料が異なる場合がある点に注意しましょう。
狭義の社会保険料は、標準報酬月額に基づき決まる点がポイントです。そして、標準報酬月額は基本的に定時決定で決まるため、4〜6月の残業時間(残業を翌月払いとしている会社の場合、3〜5月分の残業時間が該当)が伸びれば前年度と基本給は変わらなくても保険料が高くなる可能性があります。
春に従業員の残業が多い場合は、あらかじめ気をつけておきましょう。
社会保険料率は改定されるものがある
社会保険料率は、社会保険の種類によって改定されるものがある点に注意が必要です。
たとえば、一般の事業の雇用保険料率(事業主負担 + 労働者負担)は、2022年10月から2023年3月まで1.35%でしたが、2023年度は1.55%まで引き上げられています。そのほか、地域や団体によって保険料率が異なるケースもあるため、あらかじめチェックするようにしましょう。
賞与も社会保険料の対象となる
計算方法でも触れたとおり、賞与も社会保険料の対象となる点に注意が必要です。狭義の社会保険では、賞与は「標準賞与額」として計算します。
標準賞与額とは、税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた額です。ただし、健康保険は年度の累計額573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円が上限として定められています。
まとめ
健康保険料とは、会社員のように民間企業に勤めている人とその家族が加入する公的な医療保険制度に支払う保険料です。健康保険料は、厚生年金保険料や介護保険料などとともに社会保険料のひとつに分類されます。
また、社会保険料率は給料の増減によって改定される点に注意が必要です。そこで、給与計算システムを導入して給与計算を自動化すれば、社会保険料の月額変更も簡易化できます。
この機会に、給与計算システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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