産休手当(出産手当金)の計算方法は?支給条件や時期、申請忘れの場合について紹介

産休手当(出産手当金)は、標準報酬日額に3分の2をかけて計算します。ただし、産休手当を受け取るには、健康保険に加入中などの条件を満たさなければなりません。

本記事では、産休手当の概要やメリットを説明してから、支給条件や具体的な計算方法について解説します。

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産休手当(出産手当金)とは何か?

産休手当の正式名称は出産手当金です。一般的に、被保険者が出産のために会社を休んだ際に支払われる手当を産休手当(出産手当金)と呼びます。

労働基準法第65条によると、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した際、事業者は就業させてはいけません。また、産後8週間を経過しない女性の就業も禁じられています。

しかし、産前・産後休業中の賃金の支払についての規定はないため、勤務先の就業規則によって支払われるケースと支払われないケースがあるでしょう。産休手当は、休業中に受け取る賃金が減る(なくなる)女性の生活を保障するための手当です。

参考:厚生労働省 愛媛労働局「産前産後(第65条) 育児時間(第67条)生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(第68条) 就業規則の作成・変更・届出の義務(第89条~第92条)」

産休手当の計算方法

産休手当は、1日あたりで算出して対象期間の日数分が支払われます。1日あたり産休手当の計算式は、以下のとおりです。

●標準報酬日額 × 2/3

標準報酬日額は、以下の式で計算します。

●支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日

支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合、代わりに以下いずれかの数値の低い方を採用します。

●支給開始日の属する月以前の、継続した各月の標準報酬月額の平均額
●標準報酬月額の平均額(30万円:2019年4月1日以降に支給開始)

標準報酬月額とは、毎月の給料など報酬の月額を区切りのよい幅で区分した数値です。各健康保険の団体や年度によって、標準報酬月額が定められています。

支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額が36万円、休暇取得日数が98日(産前休暇42日・産後休暇56日)の場合で、計算してみましょう。

まず、標準報酬日額は1万2千円(36万円 ÷ 30日)です。続いて、1日あたり産休手当は8千円になります(1万2千円 × 2 ÷3)。

最後に対象日数をかけると、合計受給金額は78万4千円です(8千円 × 98日)。

参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「出産手当金について」

産休手当はいつ入る?

産休手当が実際に振り込まれるのは、出産してから数か月後(書類に不備がなければ、申請してから1〜2か月後)です。基本的に、産休期間中は産休手当を受け取れないため、被保険者はあらかじめ出産費や生活費を用意しておかなければなりません。

なお、産休手当は、申請書を提出する際に指定した銀行口座に一括で振り込まれます。

産休手当のメリット

従業員にとって、産休手当のメリットは経済的な不安を軽減できる点です。本来、勤務先が独自の制度を設けていないかぎり、出産に伴う休業中に収入は途絶えてしまいますが、産休手当を受け取ることで引き続き安定した収入を得られます。産休を取得し、産休手当も受け取ることで、身体的・精神的に安定した状態で出産を迎えられるでしょう。

会社にとっては、従業員が出産を理由に退職することを防げる点がメリットです。産休中も収入が得られれば、従業員も産休・育休明けにまた同じ職場に復帰しようと考えやすいです。

なお、産休期間中は、健康保険料や年金保険料の納付が免除されています。また、そもそも休業中で収入がないときには雇用保険料が発生しません。

出産育児一時金との違いは?

出産に関する給付金として、出産育児一時金もあります。出産育児一時金とは、健康保険の被保険者や被保険者の被扶養者が出産した際に、出産に要する経済的負担を軽減するために一定の金額が支給される制度です。

産休手当と出産育児一時金は、支給対象者や支給金額などが異なります。主な違いは、以下のとおりです。

産休手当(出産手当金) 出産育児一時金
目的 産休中の生活保障 出産にかかる費用の負担軽減
支給対象者 勤務先で加入する健康保険の被保険者 出産した被保険者もしくはその被扶養者
支給金額 対象者の給与額や出産日によって異なる 一律50万円(2023年4月1日時点)
妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産は、48.8万円

フリーランスや個人自営業者など、国民健康保険の加入者には、産休手当に相当する制度はありません。一方、出産育児一時金は、国民健康保険の加入者にも支給される制度です。

なお、産休手当や出産育児一時金以外に、育児休業給付金という制度もあります。育児休業給付金とは、条件を満たす場合に男女問わず育児休業中に手当が支給される制度です。

参考:厚生労働省「出産育児一時金の支給額・支払方法について」

関連記事:扶養から外れる手続きの方法は?条件やメリット・デメリットを紹介

産休手当の支給の条件

出産にあたって産休手当を受け取るためには、いくつかの条件を満たしていなければなりません。産休手当が支給されるための主な条件は、以下のとおりです。

  • 勤めている企業の健康保険に加入していること
  • 妊娠4か月(85日)以降の出産であること
  • 出産前後に給与が支給されていないこと

ここから、3つの条件について詳しく解説します。

勤めている企業の健康保険に加入していること

産休手当を支給されるためには、勤務先の健康保険に加入していなければなりません。勤務先によって、主に中小企業が対象の全国健康保険協会(協会けんぽ)、主に大企業が対象の健康保険組合、公務員が対象の共済組合があります。

アルバイトやパートでも、従業員数101人以上の企業で働く場合、以下を満たせば健康保険の加入対象です。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2か月を超える雇用の見込みあり
  • 学生ではない

参考:政府広報オンライン「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入により手厚い保障が受けられます。」

妊娠4か月(85日)以降の出産であること

妊娠4か月(85日)以降の出産であることなどが、産休手当支給の条件であることにも注意しましょう。なぜなら、健康保険における「出産」は、妊娠85日(4ヶ月)以後の出産(早産)、死産(流産)、人工妊娠中絶と定義づけられているためです。

そのため、妊娠4ヶ月未満で流産して休業した場合は、産休手当が支給されません。

出産前後に給与が支給されていないこと

出産のために休業し、その間無給であることが産休手当を受け取るための条件です。

また、産休手当の金額より低い給料を受け取っている場合も、産休手当を受け取ることがでます。その場合、出産手当と受け取った給与の差額部分が支給の対象です。

対象期間中に受け取る給与が出産手当よりも高額であれば、手当が支給されない点に注意しましょう。

産休手当支給の対象外のケース

出産手当以上の給与を受け取っているケース

すでに説明しているとおり、従業員が出産にあたって休業して給与を受け取っている場合は、産休手当の支給対象外になる可能性があります。対象外になるのは、出産手当よりも受け取る給与の額が高いときです。

なお、出産手当を計算する対象期間内に、従業員が有給休暇を取得する場合も、収入が発生すれば受給の対象外になる可能性があります。

国民健康保険の加入者であるケース

出産する人が国民健康保険の加入者である場合も、産休手当支給の対象外になります。国民健康保険制度とは、被用者保険(会社員などが加入する健康保険)や、後期高齢者医療制度などに加入していないすべての住民を対象とした医療保険制度です。

個人自営業者やフリーランスなどは、基本的に国民健康保険の加入者であるため、出産育児一時金は受け取れますが、産休手当は受給できません。

参考:厚生労働省「国民健康保険制度」

配偶者が出産するケース

配偶者が出産するケースも、産休手当支給の対象外となります。なぜなら、産休手当を受け取れるのは、健康保険に加入している人が出産するときだけだからです。

そのため、収入が少なく配偶者(男性)の扶養に入っている場合、出産する女性は加入者本人に該当しないため、産休手当を受け取れません。

なお、出産育児一時金は、被保険者もしくは被扶養者が対象のため、本人が出産する場合以外でも受け取れることがあります。

任意継続の被保険者であるケース

出産する人が、健康保険の任意継続の被保険者である場合も、産休手当の対象外になります。任意継続(被保険者制度)とは、健康保険の被保険者が退職した後も、本人の選択次第で引き続き退職前に加入していた健康保険の被保険者になれる制度です(最大2年間)。

出産手当金(産休手当)や傷病手当金は、原則として任意継続被保険者には支給されません。ただし、健康保険法第104条の要件を満たしている場合にかぎり、産休手当を受け取れることがあります。

参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「出産に関する給付(13)出産に関する給付」

退職後・退職予定の場合は?

本来、退職して健康保険に未加入であれば、産休手当は受け取れません。しかし、以下の条件を両方満たす場合にかぎり、退職後・退職予定の場合でも引き続き産休手当を受け取ることが可能です(健康保険法第104条)。

  • 1年以上の被保険者期間がある
  • 資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金(産休手当)の支給を受けている

つまり、退職するまでに1年以上同じ会社に勤めており、退職日にすでに産休を開始していれば産休手当を受け取ることができます。

なお、以下の条件を満たせば、退職後・退職予定のケースで出産育児一時金も受け取り可能です。

  • 1年以上の被保険者期間がある
  • 資格喪失日から起算して6か月以内の出産

参考:広島県雇用労働情報サイト「12-4 会社を退職すると出産育児一時金,出産手当金は支給されないのか|労働相談Q&A」

産休手当の支給対象になる期間

産休手当が支給される期間の範囲は、出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日までです。そのうち、休みを取得して給与の支払いがなかった(出産手当より少なかった)期間が産休手当の支給対象となります。

なお、出産日が予定よりも遅れた場合、出産予定日を起算日の「出産日」と読み替えます。

参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「出産手当金について」

産休手当は後からでも申請できる?

産休手当は、産休取得後でも申請可能です。ただし、休業していた日ごとにその翌日から2年以内が申請期限として定められています。

2年経過すると、1日ごとに産休手当を受給できる権利が時効で消滅していく点に注意しましょう。

なお、産休手当は産前分と産後分に分けて申請できます。ただし、その都度事業主の証明欄に証明が必要です。

参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「出産手当金について」

産休手当を申請するための準備と流れ

産休手当を申請するための準備や流れは、以下のとおりです。

  • 従業員が必要書類を準備する
  • 従業員が出産手当金支給申請書に記入する
  • 従業員が医師・助産師に必要事項を記入してもらう
  • 会社が必要事項を記入して協会けんぽなどに提出する

ここから、産休手当を受給するために、従業員と会社が何をすべきなのかを簡単に解説します。

従業員が必要書類を準備する

従業員は、自分が産休手当を受け取る条件を満たしているかを確認した上で、必要書類を準備します。必要な書類は、「健康保険出産手当金支給申請書」のみです。

一般的に、勤務先の労務担当者が、産休前に従業員へ書式を渡します。従業員が書式をもらいそびれた場合や、紛失した場合は、協会けんぽや対象の健康保険組合のサイトからも取得できます。

参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「健康保険出産手当金支給申請書」

従業員が出産手当金支給申請書に記入する

従業員は「健康保険出産手当金支給申請書」のうち、被保険者に関する欄に記入していきます。従業員が記入する主な項目は、以下のとおりです。

  • 被保険者(申請者)情報
  • 振込先指定口座
  • マイナンバー(被保険者証の記号・番号が不明の場合)
  • 出産のため勤務しなかった期間
  • 出産前の申請か・出産後の申請か
  • 出産予定日・出産日

なお、マイナンバーを記入する場合は、別途資料の添付が必要な場合があります。

参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「健康保険出産手当金支給申請書 記入の手引き」

従業員が医師・助産師に必要事項を記入してもらう

従業員が自分の記入する部分を終えたら、自ら医師や助産師に「健康保険出産手当金支給申請書」の必要事項への記入を依頼します。医師や助産師に証明してもらう主な事項は以下のとおりです。

  • 出産者氏名
  • 出産予定日
  • 出産年月日
  • 出生児数
  • 証明する署名

なお、病院によって申請書への記入には「文書料」がかかることがあります。産前・産後で複数回に分けて申請する場合は、医師や助産師による証明を省略可能です。

自分の分と医師・助産師に証明してもらう分の記入を終えたら、従業員は会社に「健康保険出産手当金支給申請書」を提出します。

会社が必要事項を記入して協会けんぽなどに提出する

従業員から「健康保険出産手当金支給申請書」を受け取ったら、会社(事業主)が「事業主証明欄」に記入します。

主に会社が記入するのは、対象の従業員の勤務状況です。出勤していない日に報酬などを支給した日がある場合は、支給日や金額を記入します。

有給休暇の賃金・通勤手当・扶養手当・住宅手当などを支給している場合、報酬の対象です。また、食事や住居などの現物を支給している場合も該当します。

必要事項の記入を終えたら、基本的に会社から協会けんぽもしくは健康保険組合に「健康保険出産手当金支給申請書」の提出が必要です。

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従業員が産休・育休中に出産や育児に専念できるように、勤務先の労務担当者が申請手続きをサポートすることが大切です。事前に制度や手続きの概要を説明しておけば、従業員の不安を取り除けるでしょう。

しかし、労務担当者は、給料計算などさまざまな業務をこなさなければなりません。労務担当者が余裕を持って従業員をサポートできる環境をつくるためには、会社で人事業務を効率化するシステムを導入することがポイントです。

カシオヒューマンシステムズ株式会社では、給与業務を含む人事業務を効率化するシステム「人事統合システム ADPS」を提供しています。「人事統合システム ADPS」を導入すれば、申請業務や給与業務などにかかる負担を軽減できます。

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関連記事:給与計算はどこまで自動化できる?|自動化のメリット・デメリットをご紹介!

まとめ

産休手当(出産手当金)は、健康保険の被保険者が出産で会社を休んだ際に支払われる手当です。1日あたりの産休手当は、標準報酬日額に3分の2をかけて計算します。

産休手当は後からでも申請できますが、2年という期限が設けられている点に注意が必要です。産休手当の計算にはやや手間がかかるため、労務担当者が従業員のサポートをしてあげましょう。

各種手続きで担当者の負担が増える場合は、人事統合システムを導入して効率化を図ることも大切です。人事統合システムの導入を検討してはいかがでしょうか?

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。