高度プロフェッショナル制度とは?条件やメリット、基本知識を徹底解説!

2023.11.09

高度プロフェッショナル制度は「働き方改革」の一環として、2019年4月に導入されたもので、高い能力や豊富な経験を持つ従業員が対象です。労働時間ではなく成果で評価される一方、残業手当が出ないなどの特徴があります。本記事では、この制度のメリットとデメリット、裁量労働制との違いや導入方法などについて解説します。

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高度プロフェッショナル制度とは何か?

高度プロフェッショナル制度は、高い職業能力を持ち、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす従業員に対して、労働時間に対してではなく、業務の成果に対する報酬を支払う制度です。企業は、制度の対象者に休日労働や時間外労働で発生する手当の支払い義務がなくなります。

成果主義の要素が強まるため、従業員は効率的な働き方ができる一方、企業は対象者の働き過ぎや健康管理などに一層の注意を払うことが必要です。

高度プロフェッショナル制度の特徴・背景

高度プロフェッショナル制度の特徴としては、労働基準法の一部が適用除外になる点が挙げられます。高度プロフェッショナル制度の適用者には、労働基準法の定める労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定は適用されないことが、同法41条の2に明記されています。

参考:労働基準法

その他にも、以下のような点がこの制度の特徴です。これらについては後述します。

  • 対象職種が決まっている
  • 年収要件がある
  • 導入には手続きが必要

2019年4月に高度プロフェッショナル制度が導入された背景には、少子高齢化にともなう労働力人口の減少や、私生活に合わせた柔軟な働き方を求める声などがありました。それを受けて、欧米の就業形態であるホワイトカラーエグゼンプションを参考にまとめられ、働き方改革関連法の一部として導入されています。

高度プロフェッショナル制度の対象業務の前提条件

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、高度な専門的技術や知識・経験を有する従業員の裁量によって、働く時間が決められることが前提条件です。対象業務に従事する時間に関し、使用者から指示を受けて行うものは含まれません。具体的な対象業務は、以下のように設定されています。

  • ⾦融⼯学等の知識を用いて⾏う⾦融商品の開発の業務
  • 資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として⾏う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき⾃⼰の計算において⾏う有価証券の売買その他の取引の業務
  • 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
  • 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
  • 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

参考:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」

高度プロフェッショナル制度の対象職種・業務

前項の前提条件に基づいて、高度プロフェッショナル制度の対象となる職種を細かく見ていきましょう。厚生労働省の資料には、以下のようなものが例として挙げられています。

  • 資産運用会社等における投資判断に基づく資産運用の業務(いわゆるファンドマネージャーの業務)
  • 資産運用会社における新興国企業の株式を中心とする富裕層向け商品(ファンド)の開発の業務
  • コンサルティング会社において行う顧客の海外事業展開に関する戦略企画の考案の業務
  • メーカーにおいて行う要素技術の研究の業務
  • 製薬企業において行う新薬の上市に向けた承認申請のための候補物質の探索や合成、絞り込みの業務
  • 既存の技術等を組み合わせて応用することによって新たな価値を生み出す研究開発の業務
  • 特許等の取得につながり得る研究開発の業務

ここで注意が必要なのは、医師は制度の対象となっていないという点です。医師は高度な専門知識や能力を必要とする職種ですが、通常、診療時間に定めがあるために対象外になるとされています。ただし、上記にあるように「研究開発」を担う医師であれば、高度プロフェッショナル制度の対象となると考えられているようです。

参考:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」

高度プロフェッショナル制度の対象労働者を指定する条件

高度プロフェッショナル制度の対象者を指定する条件は、「高度な専門知識や経験などを必要とする」ことに加え「労働時間と成果の関連性が高くない」と認められる業務に従事しており、「年収が1075万円以上」であることが求められます。1075万円という年収要件は、「民間企業に勤める従業員の平均年収の3倍を相当程度上回る額」として設定されました。

制度の対象労働者を決めるには、本人の同意と労使委員会の決議が必要です。労使委員会とは、労働条件に関する事項を調査し、事業主に対して意見を伝えるための組織で、使用者と従業員を代表する者が委員となります。労使委員会の決議については、後述します。

高度プロフェッショナル制度のメリットとは?

効率的な労働により生産性が向上する

高度プロフェッショナル制度では、労働時間ではなく成果や業績のみが報酬を決定する要素です。そのため対象者には、最短の時間で成果を上げようと努力するなど、生産性の向上を図るインセンティブが生まれます。

上司を気にしたり、残業代目当てに居残ったりする必要もなく、対象者のモチベーションが上がることも期待できます。

育児・介護と仕事の両立が可能

働く時間を対象者が自ら調整できるのが、高度プロフェッショナル制度の特徴の1つです。出退勤の時間や休暇などを自分の裁量で決められるため、私生活と仕事のバランスを取ることが容易になり、育児や介護と仕事の両立が可能になります。

在宅勤務やテレワーク、リモートワークとの相性もよく、この点でも育児や介護と仕事を両立させやすい制度と言えます。

労働時間ではなく成果で評価される

前述のとおり、高度プロフェッショナル制度は労働時間ではなく、成果で評価される点が特徴です。これまでの日本企業においては、労働時間が長くなるほど給与が加算される制度が一般的でした。仕事の段取りが悪く残業ばかりしている従業員の方が、他人以上の仕事をこなしながら定時に退社する優秀な従業員より給与が高いことになり、不公平感を生む要因ともなってきました。

高度プロフェッショナル制度は成果と給与が連動する制度であり、こうした不公平感の是正にも役立ちます。

制度の指針により賃金が下がることがない

高度プロフェッショナル制度の運用に関して、厚生労働省は「使用者は、労働者を高度プロフェッショナル制度の対象とすることで、その賃金の額が対象となる前の賃金の額から減ることにならないようにすることが必要である」とする指針を、告示により定めました。賃金が下がる心配をしなくてよいため、対象者は安心して業務に打ち込めます。

引用:厚生労働省告示第八十八号.P3.第2本人同意.5

自分のペースで働くことができ、過労を防止できる

自分のペースで働くことができるため、過労を防止できる点も高度プロフェッショナル制度のメリットです。対象者は成果が上げられる見込みに応じて、長く働く日や短めに切り上げる日を自分で設定します。自分のペースに合わせた働き方ができれば、無理なく仕事を進めることができ、過労の防止にも効果が期待できます。

高度プロフェッショナル制度のデメリットとは?

1日あたりの労働時間の規制が撤廃される

高度プロフェッショナル制度の対象者には、労働基準法で定める労働時間の上限規制が適用されません。成果がなかなか上がらず、長時間労働を余儀なくされる可能性がある点は、この制度のデメリットです。成果が出ず、労働時間が長くなってしまうと、体調管理が疎かになってしまう人が出てくる可能性があります。

その結果、疲労の蓄積を原因とする病気やメンタル不全に陥ったり、最悪の場合は過労死したりする懸念もあります。制度を導入する場合、事業主は健康管理に十分な注意をすることが必要です。

残業手当や深夜手当の支給義務がない

前項と関連しますが、高度プロフェッショナル制度の対象者には労働基準法の一部が適用除外となるため、会社には残業手当や深夜手当の支給義務がない点も、高度プロフェッショナル制度のデメリットに挙げられます。成果を上げようと長時間労働をしても、その時間に見合う賃金が支払われるわけではありません。

評価が難しく報酬が適正でない場合がある

高度プロフェッショナル制度の対象者が従事する、専門性の高い業務には、評価が難しいという問題もあります。製薬企業の新薬開発などでは、10年以上の年月がかかることもあり、結果として開発が失敗することも少なくありません。

成果が出ないからといって低い賃金を設定したのでは、対象者のモチベーションが上がらず、離職されてしまう事態も考えられます。長い時間を必要とする開発などでは、プロセスも考慮に入れた適正な報酬決定方法の設定が重要です。

裁量労働制と何が違うのか?

働き方の裁量を従業員に委ねるという点で、高度プロフェッショナル制度は裁量労働制と似ていますが、詳細に見るとさまざまな点で違いがあります。大きな差異としては、高度プロフェッショナル制度には労働時間の規定はありませんが、裁量労働制は労働基準法の範囲内で見なし労働時間を定めることとなっている点が挙げられます。

高度プロフェッショナル制度では、労働基準法の定める休憩や休日の規定は適用されません。一方、裁量労働制は労働基準法の枠内に収まる制度であるため、休憩や休日、深夜手当などの諸規定が適用されます。対象業務についても、裁量労働制は高度プロフェッショナル制度よりも幅広く設定されている点が違いです。

高度プロフェッショナル制度に年収要件があるのに対し、裁量労働制には年収要件がないことも、特徴的な差異と言えます。

高度プロフェッショナル制度 裁量労働制
労働時間 規定なし 労働基準法の範囲内
休憩、休日の規定 なし あり
対象業務 5業務に限定される 23業務に限定される
年収要件 1,075万円以上 なし

高度プロフェッショナル制度導入時に、健康確保措置の実施が必要

前述したとおり、高度プロフェッショナル制度の対象者には労働時間の定めがないため、成果を追い求めて長時間労働した結果、体調を崩すなどの懸念があります。対象者が働き過ぎに陥らないよう、使用者には健康確保措置の実施が義務付けられています。

具体的には労働基準法第41条の2第1項第3号から第6号に定められており、概要は以下のとおりです。

  • 健康管理時間の把握
  • 休日の確保
  • 選択的措置
  • 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

健康管理時間とは、対象者が事業場内にいた時間と、事業場外で労働した時間の合計をいいます。選択的措置については、以下のいずれかの措置を決議で定め、実施しなくてはなりません。

  • 勤務間インターバルの確保および深夜業の回数制限
  • 健康管理時間の上限措置
  • 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること
  • 臨時の健康診断

参考:労働基準法
参考:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」

高度プロフェッショナル制度導入時の手続き・ルール

高度プロフェッショナル制度の導入をするためには、まず労使委員会で全委員の5分の4以上の同意を得て必要事項を決めることが不可欠です。決議すべき事項は以下のようになっています。

  • 対象となる業務
  • 対象者の範囲
  • 対象者の健康管理時間を把握すること、その把握⽅法
  • 対象者に年間104⽇以上、かつ4週間を通じ4⽇以上の休⽇を与えること
  • 対象者の選択的措置
  • 対象者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
  • 対象者の同意の撤回に関する⼿続
  • 対象者の苦情処理措置を実施すること、その具体的内容
  • 同意しなかった従業員に不利益な取り扱いをしてはならないこと
  • その他厚⽣労働省令で定める事項(決議の有効期間など)

参考:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」

労使委員会の決議後、対象となる従業員本人から書面で同意を得ることが必要です。同意は、以下の3点について内容を明らかにした書面に、従業員本人の署名を受けることによって行います。

  • 同意をした場合には労働基準法第4章の規定が適⽤されないこととなる旨
  • 同意の対象となる期間
  • 同意の対象となる期間中に⽀払われると⾒込まれる賃⾦の額

人事業務を効率化するシステムを提供

高度プロフェッショナル制度の運用では、対象者の労働時間を把握し、働き過ぎを防ぐ必要があります。長時間労働の防止と適切な健康管理には、人事業務システムの導入が効果的です。カシオヒューマンシステムズ株式会社では、累計5,000社を超える導入実績を持つ人事統合システム「ADPS」を提供しています。ADPSは複雑な勤務体系にも対応し、長時間労働の抑制や計画的な働き方の意識づけなどが可能なシステムです。

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まとめ

高度プロフェッショナル制度は、高い専門性を持つ従業員に対し、労働時間ではなく成果で報酬を支払う制度です。労働基準法の一部の適用が除外されるため、残業手当や深夜勤務手当などは支払われなくなります。

この制度の対象となる業務は5分野に限定されており、誰でも対象になれるわけではありません。年収1075万円以上という要件も付されています。育児や介護との両立がしやすくなり、自分のペースで働くことができるなどのメリットがある一方、働き過ぎを招く懸念や、適正な評価が難しいなどの課題も指摘されています。

制度の導入には、労使委員会の決議が必要です。働き方改革の推進を検討している場合は、高度プロフェッショナル制度についても労使で検討してはいかがでしょうか。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
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定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。