賃金台帳とは?保存期間と適切な保存方法について解説
2024.05.27

賃金台帳とは、従業員の給与に関連する情報を管理する書類です。賃金台帳を適切に保存していなかったり、必要事項が記載されていなかったりした場合に罰則を受けるほか、複数のトラブルが考えられるため注意しましょう。
ここでは、賃金台帳の保存期間を中心に紹介するとともに、想定される罰則やトラブル、適切に保存するためのポイントを解説します。
目次
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賃金台帳とは?給与明細との違い

賃金台帳とは、従業員の給与に関する情報を管理する書類のことです。ここでは、賃金台帳についての詳細とともに、給与明細との具体的な違いや記載事項についても解説していくため、ぜひ参考にしてください。
関連記事:賃金台帳とは?作成方法やポイント・給与明細との違いについて解説
賃金台帳は法定四帳簿のひとつ
賃金台帳は法定三帳簿のひとつに数えられる帳簿でもあります。法定四帳簿とは、労務管理を適切に行うために、事業所ごとに設置が義務付けられている帳簿のことです。法定四帳簿には、賃金台帳以外に労働者名簿と出勤簿と年次有給休暇管理簿があります。
なお、以前は法定三帳簿と呼ばれていましたが、2019(平成31)年4月に「年次有給休暇管理簿」が追加され、四帳簿となりました。
各帳簿の概要は以下のとおりです。
賃金台帳:勤務時間/日数、手当などの給与に関する情報を記録するための帳簿
労働者名簿:従業員の氏名や生年月日、住所、業務種別など、個人情報を管理するための帳簿
出勤簿:出退勤/休憩時間など、勤務時間を把握するための帳簿
年次有給休暇管理簿:有休の取得日、付与日、日数を把握するための帳簿
そもそも賃金台帳とは、従業員の給与に関する情報を管理する書類です。従業員を雇っている企業や個人事業主では、労働基準法(第108条)で作成が義務付けられているため、作成ならびに管理・保管の必要があります。
後述するとおり、賃金台帳では記入方法や保管期間が法律で決められており、適切に処理できていない場合は罰則を受ける可能性があるため、注意しましょう。
賃金台帳と給与明細との違い
賃金にまつわる書類として、給与明細が思い浮かぶ方もいるかもしれません。賃金台帳と給与は異なるものです。ここでは、賃金台帳と給与明細のそれぞれの違いに関して解説します。
まず、賃金台帳と給与明細では記載内容や作成目的が異なるため、注意が必要です。賃金台帳とは各従業員への給与の支払い状況や勤務時間などを記載した書類です。
一方の給与明細とは、給与の支払額や控除額を記載した、従業員一人ひとりへの通知書のことで、保管期間も定められていません。給与明細は従業員に渡さなければなりませんが、賃金台帳は会社で保管するものであるという違いもあります。
それぞれの、主な違いは以下の表のとおりです。
賃金台帳 | 給与明細 | |
---|---|---|
法的根拠 | 労働基準法 | 所得税法 |
記載項目 | 賃金の計算対象となる期間や勤務日数・時間など、労働基準法で決められた10項目 | 給与の支払額・控除額・勤怠情報など |
なお、10項目の詳細については、「賃金台帳の項目と記載時の注意点」にて詳しく解説します。
関連記事:賃金台帳とは?作成方法やポイント・給与明細との違いについて解説
賃金台帳の保存期間

賃金台帳の保存期間は、労働基準法によって原則5年と定められています。労働基準法により記載内容も定められているため、注意しましょう。
2020年の改正労働基準法により一部変更された保存期間や源泉徴収簿と兼ねる場合の保存期間など、ここでは賃金台帳の保存期間について詳しく解説します。
賃金台帳の保存期間は原則5年
賃金台帳の保存期間は、原則5年間です。以前は3年間でしたが、2020年の改正労働基準法の施行にともない賃金台帳の保存期限は5年間に延長されました。ただし、当分の間は経過措置として3年が適用されるため、注意しましょう。
また、起算日の基準も変更になっています。以前は、最後に賃金台帳に記録した日からと定められていました。しかし、現在は「最後に賃金台帳に記録した日」と「賃金台帳に記録した賃金の支払期日」を比べて、よりあとの日付を起算日としています。
たとえば、次のような状況を想定して起算日を見てみましょう。
- 11月分の賃金計算期間:2023年11月1日〜2023年11月30日
- 賃金台帳への記載完了日:2023年12月10日
記載完了日である12月10日以前に11月分の賃金支払期日が来る場合は、記載完了日の12月10日が起算日になります。仮に、支払期日が12月10日以降なのであれば、支払期日が起算日です。
源泉徴収簿と兼ねる場合は7年
企業において賃金台帳と源泉徴収簿を兼ねている場合、賃金台帳は7年間保存する必要があります。なぜなら、源泉徴収簿は「その申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存する必要がある」ためです。源泉徴収簿と兼ねている場合は、保存期間が5年から7年に延びると覚えておきましょう。
参考:国税庁「No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間」
賃金台帳以外の法定四帳簿の保存期間
法定四帳簿の保管期間は起算日から5年間です。前述したとおり、賃金台帳以外の法定四帳簿である労働者名簿、出勤簿、年次有給休暇管理簿も法律で保管が定められています。それぞれ起算日が異なるため注意しましょう。帳簿ごとの保存期間と起算日は以下のとおりです。
- 労働者名簿:従業員の退職、解雇、死亡の日から5年間
- 出勤簿:従業員の最終出勤日より5年間
- 年次有給休暇管理簿:年次有給休暇を与えた期間の満了後5年間
*従来は3年間でしたが、2020年の改正労働基準法の施行によって5年間に延長されました。(労働基準法第109条)
賃金台帳の項目と記載時の注意点

ここでは、賃金台帳の記載項目と記載時の注意点について解説します。賃金台帳に記載する項目は、以下の全10項目です。すべて法律で決められた項目であるため、必ず記載しましょう。
- 賃金計算の基礎となる事項
- 氏名
- 性別
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働、休日労働および深夜労働時間数
- 賃金計算期間(日雇い労働者は記入不要)
- 賃金の額
- 基本給、手当などの種類とその金額
- 控除項目とその金額
なお、これらの項目が記載されていない場合は賃金台帳として認められません。
参考:厚生労働省「労働者名簿及び賃金台帳の調製と記録の保存(第107条~第109条)」
書き方に決まったフォーマットはない
1つめの注意点として、賃金台帳の書き方には決まったフォーマットがないことが挙げられます。厚生労働省で開示されているテンプレートがあるものの、記載項目やルールが守られていれば、作成方法に決まりはありません。
前述した10項目が記載されていれば、自作の書式でも手書きの紙媒体でもOKです。ただし、紙ベースで作成すると修正や更新に時間がかかるほか、計算ミスなどのリスクも否定できないため、あまりおすすめできません。
そのため、賃金台帳の作成においては、給与管理・勤怠管理のできるシステムやエクセル用のテンプレートなどを活用すると効率よく管理できます。
厚生労働省のテンプレートは、以下の参考からダウンロード可能です。
参考:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
日雇い労働者の場合は賃金計算期間が不要
2つめの注意点として、日雇い労働者の場合は賃金計算期間の記載が不要である点が挙げられます。賃金計算期間とは、毎月の給与を計算する開始日から締め日のことです。
賃金計算期間は企業が自由に設定できますが、「給与を毎月一定の期日に支払う」「1か月に最低1回以上給与を支払う」などの要件を満たす必要があります。ただし、継続勤務が1か月を超えない場合は「賃金計算期間」の記載がいらないため、日雇い労働者の場合は記載が不要です。
時間外労働や休日労働の場合は割増賃金が必要
3つめの注意点は、時間外労働や休日労働の場合は割増賃金が必要なことです。深夜・休日勤務、時間外労働には割増賃金の支払いが義務付けられています。後々のトラブルを避けるうえでも、正確に管理・記入するようにしましょう。
参考:厚生労働省「法定労働時間と割増賃金について教えてください。」
関連記事:残業代や残業時間の計算方法とは?手順をわかりやすく解説
賃金台帳のルールに違反した場合の罰則やトラブル

賃金台帳においては、保存期間を守らなかったり、必要事項が記載できていなかったりした場合に罰則を受けるほか、複数のトラブルが考えられるため適切な保存が欠かせません。ここでは、違反した場合の罰則やトラブルに関して解説します。
労働基準監督署から是正勧告を受ける
労働基準監督署が実施する臨検監督において、賃金台帳の保存方法に不備が見つかった場合、是正勧告を受けることになります。
臨検監督とは、賃金の支払状況や労働環境に関しての抜き打ち検査のことです。臨検監督では、賃金台帳などの書類が適切に作成されているかもチェックされます。保存期間に違反があったり、記載事項が抜けていたりすると、罰則の対象となるため注意しましょう。
とはいえ、悪質な場合を除いて、罰則がいきなり科せられることはありません。一般的には、賃金台帳の修正や労働環境の改善を求められます。もしも悪質な違反であるとみなされたり、指導に従わなかったりした場合は、30万円以下の罰金に処される可能性があるため、是正勧告を無視するといった行動は慎みましょう。
雇用保険や助成金の手続きが滞る可能性がある
賃金台帳の保存や記載方法が適切に行われていないと、従業員の雇用保険や助成金の手続きが滞る可能性があります。なぜなら、それらの手続きをする際に賃金台帳の提出が求められるためです。
たとえば、従業員を雇用したときや転勤させるときなどには、届出書と一緒に賃金台帳も提出しなければなりません。また、キャリアアップ助成金や雇用調整助成金などを申請する際にも、基本的に申請書類と賃金台帳を提出します。
賃金台帳の保管不備が原因で問題が生じないように、日頃から賃金台帳を適切な方法で保存・管理するようにしましょう。
賃金台帳の適切な保存方法とは?5つのポイント

これまで解説してきたように、賃金台帳は長期の保存が義務付けられており、企業にとって重要な書類です。ここでは、賃金台帳の適切な保存に欠かせないポイントを解説します。主なポイントは、以下の5つです。
- 賃金台帳に更新日を記載しておく
- 電子データでの保存を検討する
- 賃金台帳は事業所ごとに保存する
- すぐに提出できるように内容を整理しておく
- 担当者間で賃金台帳に関するルールを共有する
1.賃金台帳に更新日を記載しておく
賃金台帳には更新日を記載しておくようにしましょう。賃金台帳を含む法定三帳簿の保管期間は、前述したように起算日から5年間です。注意したいのは、それぞれで起算日が異なる点です。期限を誤って破棄することがないように、それぞれ更新日を記載しておいてください。
賃金台帳は、賃金の支払いが発生するたびに記入する帳簿です。賃金は毎月1回以上支払う必要があるため、賃金台帳も毎月1回以上の頻度で記入することになります。更新のたびに日付を書いて保存しておけば、効率的に管理できるほか、間違いを防止可能です。
2.電子データでの保存を検討する
賃金台帳を適切に保存したいのであれば、電子データでの保存も検討してみましょう。賃金台帳の保存方法は法律で決められていないため、紙媒体以外にも電子データによる保存も可能です。
しかし、紙媒体で保存していると必要なときにすぐ見つけられなかったり、修正や更新に時間がかかったり、人的ミスが発生したりする恐れがあります。その点、電子データであれば、見つけたい情報をすぐに見つけられます。ほかにも、物理的な保管スペースが不要になったり、自動計算によりミスを防げたりするなど、多くのメリットを受けることが可能です。
ただし、データで保存する際は一定の要件を満たす必要があるため注意しましょう。ルールは、以下の4つです。
- すぐに提出できること
- 必要に応じて、それらを画面上に表示したり印刷したりすることが可能であること
- 誤って消去されないように保護されていること
- 長期にわたって保存できること
具体的には、賃金台帳の情報にいつでもアクセス可能な状態に整理しておきつつ、データ消失に備えてバックアップを定期的に取るようにしましょう。
参考:厚生労働省「労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか。」
3.賃金台帳は事業所ごとに保存する
事業所ごとに賃金台帳を保存することも、適切な管理において忘れてはならないポイントです。賃金台帳は事業所や支社ごとに分けて保存する必要があり、一括して本社でまとめて保存するといった方法は認められていません。本社でまとめて作成して保存している場合は、支社や事業所にも賃金台帳を置くようにしましょう。
なお、賃金台帳をパソコンで作成してデータで保存している場合も同様です。支社や事業所へ各情報を配布しておく必要があります。ただし、クラウドサーバ上に保存して、どこからでもアクセスして表示/印刷できるようにする方法は認められているため、企業にとって適している方法を選択しましょう。
4.すぐに提出できるように内容を整理しておく
賃金台帳は、すぐに提出できるように内容を整理しておくことも適切に管理するうえで欠かせません。前述したように、賃金台帳は従業員の雇用や離職の際に提出が必要です。
また、労務関係におけるトラブルが発生した際や、労働基準監督署による調査などでも必要になる可能性があります。そのため、いつでも提出できるように、日頃から内容を整理して適切に保管しておきましょう。
5.担当者間で賃金台帳に関するルールを共有する
賃金台帳に関するルールは、担当者間でしっかり共有しておくようにしましょう。万が一、保存期間を誤って捨てたり、更新を忘れたり、記載漏れがあったりすると適切な保存が行えません。
ミスがないようにするためにも、担当者間でルールを共有するようにしましょう。また、効率的かつ正確に作成・管理するためには給与管理システム・勤怠管理システムの活用もおすすめです。
関連記事:賃金台帳とは?作成方法やポイント・給与明細との違いについて解説
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まとめ

賃金台帳は、従業員の給与に関連する情報を管理する大切な書類です。適切に保存していなかったり、必要事項が記載されていなかったりすると、罰則の対象となるだけでなくトラブルを招く可能性もあります。
給与計算や従業員情報の登録など担当者の業務負担を減らすためには、人事総合システム「ADPS」の導入がおすすめです。人事総合システムを導入して、人事業務を効率化しましょう。
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