時短勤務で給与はどうなる?計算方法や注意点を解説

育児や介護を必要とする従業員が対象となる時短勤務は、従業員にとってメリットがある一方で、収入減になるなどのデメリットもあります。時短勤務の基礎から、給与や賞与との関係、企業が考えるべき注意点などについて、幅広く解説します。

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時短勤務とは?考え方やフレックスタイム制との違い

時短勤務とは、育児や介護をする従業員に対して講じる、所定労働時間の短縮措置をいいます。2009年に改正された育児・介護休業法で定められました。時短勤務は、企業規模の大小にかかわらず、すべての事業主に導入が義務付けられています。正社員だけでなく、有期雇用の従業員も時短勤務の対象です。

時短勤務の対象者は、育児と介護で異なります。育児に関する時短勤務は「3歳未満の子を養育」している従業員が対象で、介護の場合は「要介護状態にある家族を介護」している従業員が対象です。

厚生労働省は、育児に関する時短勤務制度は「1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)とする措置を含むものとしなければならない」と指針を定めています。介護については、従業員が希望すれば利用できる時短勤務やフレックスタイム制の導入などの措置を設けるよう義務付けました。

この項では、時短勤務における給与についての基本的な考え方や、フレックスタイム制との違いなどについて解説します。

参考:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」

時短勤務の給与における考え方

時短勤務が適用された従業員は、労働時間が他の従業員よりも少なくなります。それにともなって、給与も減少するのが通例です。

時短勤務の適用者に対して、給与を減額することは認められています。ただし、企業が好き勝手に給与を減額することはできません。時短勤務における給与についての基本的な考え方は、以下の2つです。

  • ノーワーク・ノーペイの原則
  • 不利益取扱の禁止

それぞれについて、以下で説明します。

ノーワーク・ノーペイの原則

ノーワーク・ノーペイの原則は、「働いていない従業員には給与の支払いもない」ことを表した、給与支払いに関する基本原則です。時短勤務では働く時間が減るため、それにともなって給与も減るという考え方です。

この基本原則は、「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない」と定めた、民法624条が根拠とされています。時短勤務によって通常より少ない労働力が企業に提供され、それを基に報酬が請求されるため、給与が減るという流れです。

賃金の低下が認められるのは、あくまで労働力の減少に相当する分に限られます。減少相当分を超えて減額すると、次に示す「不利益取扱の禁止」に抵触しかねないため、注意が必要です。

参考:民法

不利益取扱の禁止

従業員が育児や介護による時短勤務をした場合、そのことを理由に解雇や給与の減額など、不利益な取り扱いをしてはならないと、育児・介護休業法で定められています。具体的な「不利益な取り扱い」は厚生労働省が指針として示しており、主なものは以下のとおりです。

  • 解雇
  • 降格
  • 不利益な自宅待機を命ずること
  • 減給または賞与などにおいて不利益な算定を行うこと
  • 人事考課において不利益な評価を行うこと
  • 不利益な配置の変更

時短勤務を理由として、正社員をパートタイマーにするなどの労働契約内容の変更も、不利益な取り扱いに含まれます。給与の減額以外にも、不利益な取り扱いに当てはまる事項は多数あるため、企業は適切な対応が必要です。

参考:育児・介護休業法

参考:厚生労働省「妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱い」

時短勤務とフレックスタイムは異なる制度

時短勤務と似た制度として、フレックスタイムがあります。フレックスタイムは始業と終業の時間や労働時間を、従業員が自ら決められる制度です。企業によって、必ず出勤していなければならない時間帯である、「コアタイム」を設ける場合もあります。新型コロナウイルス感染症の流行時に、感染の拡大を防止するための措置として注目されました。

時短勤務とフレックスタイムは、似てはいても異なる制度です。両者の違いで大きなものは、労働時間が固定されているかどうかです。時短勤務では、1日の勤務時間は固定され、多くの場合は6時間とされています。勤務時間は短くなりますが、労働時間を自由に選べるわけではありません。

フレックスタイムは、始業と終業の時間を従業員が決めるため、日ごとに労働時間が変動します。企業が時短勤務とフレックスタイムの両方を制度化している場合、従業員は両制度の併用が可能です。

育児・介護休業法における時短勤務の対象者

育児・介護休業法は、育児と介護に関する仕事との両立を支援する法律です。前述しているとおり、時短勤務の対象者は、育児と介護で異なります。ここでは、それぞれの対象者について詳細に説明します。

「育児時短勤務」の対象者

育児に関する時短勤務の対象者は、3歳未満の子を養育していることが基本です。そのほかに、以下のすべての条件を満たしている必要があります。

  • 短時間勤務をする期間に育児休業を取得していない
  • 日々雇用される従業員でない
  • 所定労働時間が1日あたり6時間以下でない
  • 労使協定で適用除外とされた従業員でない

これらの条件を満たせば、有期雇用の従業員であっても、対象となります。労使協定により適用除外とされる場合がある従業員とは、以下のような事例です。

  • 雇用されてから1年未満
  • 所定労働日数が1週間で2日以下
  • 業務の性質上、短時間勤務が困難

このうち、業務の性質から短時間勤務が困難な従業員を適用除外とした場合は、企業は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。

  • 育児休業に準ずる措置
  • フレックスタイム制度
  • 時差出勤制度
  • 保育施設の設置運営など

「介護時短勤務」の対象者

育児・介護休業法は企業に対して、要介護状態にある家族を介護する従業員が希望すれば利用できる、短時間勤務などの制度を講じるよう義務付けています。介護を目的として勤務時間を短縮できる対象者は、「日々雇用される従業員以外のすべて」の従業員です。ただし、以下に該当する従業員で労使協定の定めがある場合には、対象となりません。

  • 勤続年数が1年未満
  • 週の所定労働日数が2日以下

ここでいう「要介護状態」とは、病気やけが、障害などにより、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態をいいます。同法は、企業に以下のいずれかの措置を義務付けています。介護に関しては、育児よりも多様で柔軟な制度設計が可能です。

  • 短時間勤務制度
  • 時差出勤制度
  • フレックスタイム制度
  • 介護サービスの費用助成など

時短勤務の適用期間

時短勤務は、育児でも介護でも、従業員からの申し出によって適用される制度です。適用期間は、育児と介護で異なっています。育児では「子が3歳に達するまで」、介護では「利用開始日から連続して3年以上」の期間で対応できるよう、企業は制度整備が必要です。

以下で、育児と介護それぞれについて細かくみていきます。

「育児時短勤務」の適用期間

育児時短勤務の適用期間は、具体的には「子が3歳になる誕生日の前日まで」です。子が2人以上いる従業員の場合、上の子が3歳の誕生日を迎えても、下の子が3歳未満であれば継続します。

上の子が3歳になったからといって、フルタイムに戻してしまうと、それは違法です。企業としては、弟や妹がいないかを確認することが重要です。

育児・介護休業法では、その後も小学校入学までは時短勤務を継続することを、「努力義務」としています。「小学校入学まで」とは、子が6歳に達してから最初に迎える3月31日までの期間です。

小学校入学までの継続は努力義務であるため、制度を設けなくても問題はありません。制度化する場合は、企業で独自に設定する必要があります。

「介護時短勤務」の適用期間

介護のための時短勤務については、取得期間の上限に関する法的な決まりはありません。前述のとおり、「利用開始日から連続して3年以上の期間」で取得でき、「3年以上の期間で2回以上取得が可能」とされています。

「3年以上の期間で2回以上」とは、介護を必要とする家族の状況にあわせて、通常勤務をしたり、短時間の勤務を選択したりと、3年以上の期間にわたって2回以上の取得ができるということです。

時短勤務の給与の基本的な計算方法

時短勤務の適用を受けた従業員は、原則として給与が減額されます。前述した「ノーワーク・ノーペイの原則」があるためです。どの程度の減額になるのかは、基本的には以下の式で計算されます。

基本給 × 実労働時間 ÷ 所定労働時間 = 時短勤務時の給与額

事例に当てはめて、時短勤務になると給与がどのように変動するのかを確認してみます。条件は以下のとおりです。

  • 所定労働時間 8時間
  • 時短勤務での労働時間 6時間
  • 所定労働日数 20日
  • 基本給 23万円(手当なし)

時短勤務が適用されると、上記の式の「実労働時間」が変わります。時短勤務の適用前は、給与額は23万円でしたが、時短勤務適用後は以下のようになります。

基本給(23万円) × 実労働時間(6時間)÷ 所定労働時間(8時間)= 時短後の給与額17万2500円

23万円だった給与が17万2500円に、25%の減額となる計算です。「基本給」とは、手当などを含まない、給与のベースとなる金額を意味します。上記の計算式は、時短勤務の適用で、基本給が23万円から17万2500円に減額されたことを表しています。

時短勤務でどうなる?給与や賞与などの変化

時短勤務で給与がどのくらい減額されるのか、基本的な計算について前項で説明しました。実際の給与には手当が付いたり、税金や社会保険料が引かれたりしています。また、多くの企業では、賞与(ボーナス)の支払いもあるでしょう。

時短勤務によって、手取り額や賞与などはどのように変わるのか、以下に解説します。

基本給は減少する

前項の計算で示したように、基本給は勤務時間の減少にあわせて計算されるため、減少します。基本給に手当を上乗せし、そこから税金や社会保険料を引いたものが、いわゆる「手取り」です。

計算例では、基本給は25%減っていました。この例では手当なしの前提であり、手取りは25%以上の減額となります。天引きされる住民税は、時短勤務の適用前と同じ額であるためです。社会保険料も、改定されるまではフルタイムで働いていたときと同額が控除されます。

住民税は前年の1~12月の所得を基礎に計算され、社会保険料は4~6月の標準報酬月額から計算されるのが原則です。社会保険料については給与の変動に対応する手続きがあり、それについては後述します。

賞与(ボーナス)の扱いは企業により異なる

賞与については、労働基準法に規定がありません。時短勤務の適用者に対する賞与をどのようにするかは、各企業で独自に制度設計が可能です。賞与の決め方には、大きく分けて以下の2通りがあります。

  • 基本給を基準とする
  • 業績を基準とする

基本給を基準に賞与を支給している企業の場合、基本給が減額されれば賞与も減額されるのが一般的です。業績が基準になる場合は、時短勤務であっても賞与は下がらない可能性があります。時短勤務だからといって、企業が従業員を正当に評価せず賞与を大幅に減額することは、前述の「不利益取扱の禁止」に抵触しかねません。

企業によっては、基本給をベースにしながら、業績も加味して賞与を決めているケースもあります。賞与の扱いは企業によって異なるため、確認が必要です。

社会保険料や年金額は手続きの有無で変わる

前述したように、社会保険料は4~6月の標準報酬月額を基礎に算出され、9月から改定されます。そのままにしておくと、自動的に社会保険料が再計算されることはないため、時短勤務になる前の社会保険料が天引きされ続けます。

育児休業を終えて時短勤務となった場合は、「育児休業等終了時報酬月額変更届」の手続きを取ることが必要です。それにより、復職後4か月目から、時短勤務での標準報酬月額に改定されます。変更届の手続きは、勤務先企業を経由して日本年金機構に提出します。

給与が減額され、何の手続きも取らずにいると、将来の年金額にも悪影響が出かねません。「育児休業等終了時報酬月額変更届」とあわせて「養育期間標準報酬月額特例申出書」を日本年金機構に提出することで、厚生年金額の減少を防げます。

養育期間標準報酬月額特例申出書を提出すると、時短勤務になる前と同じ額の年金保険料を支払っているとみなしてくれるためです。対象者の条件は、3歳未満の子と同居し、かつ養育していることです。

残業代などの手当は減少する

時短勤務の適用期間中は、原則として残業は制限されるため、残業代はゼロになります。時短勤務になる前に残業時間が多かった場合は、手取りの減少幅が大きく感じられる可能性があります。

企業ごとに手当の種類はさまざまです。手当の種類を大別すると、以下のようになります。

  • 労働時間や日数を基準とする手当
  • 職務を基準とする手当
  • 家族に関連する手当

このうち、時短勤務にともなって減額される可能性があるのは、「労働時間や日数を基準とする手当」です。前述の残業代も、この手当に相当します。

役職手当のような職務を基準とする手当や、家族手当などの家族に関連する手当は労働時間や日数を基準とするものではないため、通常は時短勤務となっても減額されません。ただし、時短勤務となるタイミングで役職が変わったり、部署の異動で職務手当の額が変更されたりして、手当の額が減少することはあり得ます。

時短勤務の給与に関する注意点

給与の増減は、従業員にとって大きな問題です。時短勤務の従業員との間にトラブルが起きることはもとより、フルタイムで働く他の従業員との間で不公平感が生まれるのも避けたいものです。この項では、時短勤務の給与に関する注意点をまとめました。

手当や賞与の扱いについて就業規則に記載する

時短勤務の場合の給与については、減額する率を就業規則に明記することが重要です。給与の減額率に関しては、法律の規定は存在しません。企業が独自に定められますが、だからといって、減額幅を不当に大きくしてはトラブルの元になるばかりです。

手当や賞与については、労働基準法にも規定はなく、支払っても支払わなくても法的には問題はありません。手当や賞与の扱いについても就業規則に記載し、従業員が安心感を持って働けるよう配慮することをおすすめします。

従業員の間で不公平感が生まれないよう配慮する

時短勤務を適用する従業員に対し、給与を減額しないという施策もあり得ます。減額しなくてはならない、という決まりはないためです。しかし、時短勤務にともなう給与の減額を行わない場合は、他の従業員との間で不公平感が生まれないよう注意が必要です。

時短勤務でもフルタイムでも給与が変わらないのであれば、フルタイムの従業員は損をしたように感じるかもしれません。時短勤務の従業員に手厚い対応をしすぎて、フルタイムで働く従業員のモチベーションを下げるようなことがないよう、バランスの取れたルール作りをすることが重要です。

一般に、従業員の一部が時短勤務になったとしても、部署全体の業務量が減るわけではありません。時短勤務ではない従業員の負荷が高まると、不公平感が生まれる原因となります。業務分量の見直しや、人員配置の適正化などで、従業員の不公平感が高まらないよう対処する必要があります。

給与の減額が適さないケースもある

時短勤務を適用したとしても、給与を減額することが適当ではない職種もあることには注意が必要です。裁量労働制や歩合制で働く従業員は、時間ではなく出来高が給与に直結します。こうした仕事のやり方に対しては、給与の減額は不適当です。

時短勤務であることが仕事の結果に影響しないのであれば、給与を減額する必要はないといえます。

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まとめ

育児や介護を目的とする時短勤務は、育児・介護休業法により、すべての企業に制度の導入が義務付けられています。時短勤務が適用されると、労働時間の減少にともなって給与も減額となるのが一般的です。

給与の減額率のほか、時短勤務中の手当や賞与の扱いについても、就業規則で明確化しておくことをおすすめします。フルタイムで働く従業員に、不公平感を抱かせないような対応が重要です。

時短勤務に限らず、リモートワークやフレックスタイム制など、コロナ禍をきっかけに従業員の働き方は多様性を増しています。それにともなって、人事業務も複雑になる一方です。人事業務の負担から従業員を解放し、効率的な働き方を実現するには、人事統合システムの導入が有力な選択肢となるでしょう。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。