私立学校における人事管理の問題点と働き方改革の必要性とは
2024.10.07

私立学校と公立学校では適用される法律が異なりますが、原則として教員には残業代の支払いが必要です。しかし、私立学校ではしばしば残業代の未払いが発生しています。この記事では、私立学校における人事管理の問題点から改善策まで、幅広く解説します。
目次
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私立学校と公立学校の法律に関する違い

学校には大きく分けて私立と公立があります。学校の労務管理において、それぞれ大きな違いがあることはご存知でしょうか。両者に違いがあるのは適用される法律が異なっているためです。以下で、法律に関する違いを解説します。
公立学校に適用される法律は「給特法」
公立学校の教員に適用される法律は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」という特殊なものです。給特法では、公立学校教員の割増賃金について以下のような定めがあります。
- 時間外勤務手当や休日勤務手当は支給されない
- その代わり、給料月額の4%相当の「教職調整額」が支給される
公立学校の教員には「残業代」という名目の支給はなく、どれだけ残業したとしても給料月額の4%相当しか支払われません。そのため、公立学校の教員は「定額働かせ放題」の状態です。
参考:e-gov法令検索「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」
私立学校に適用される法律は「労働基準法」
給特法の対象は、公立学校の教員のみです。一方、私立学校の教員には、労働時間と給与に対して労働基準法が適用されます。一般のサラリーマンと同様です。
労働基準法は、企業や私立学校などの使用者に「休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」ことや、「休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」ことが定められています。やむを得ない事情などにより残業させる場合は、私立学校は教員に割増賃金を支払わなければなりません。
関連記事:労働時間とは?労働基準法における上限や休憩の定義を解説
私立学校における「残業」の考え方とは

私立学校における「残業」とは、どのような考え方に基づくものなのでしょうか。労働基準法をベースに、詳細を解説します。
そもそも「残業」とは
「残業」を細かく分けると、「時間外労働」と「法定内残業」の2つがあります。前述した通り、「1週間に40時間、1日に8時間を超えてはならない」というのが、労働基準法における労働時間のしばりです。これを法定労働時間と呼び、この枠を超えて働いた時間が「時間外労働」です。
なお、法定労働時間とは別に、各企業や私立学校などには就業規則で定められた労働時間があります。所定労働時間と呼ばれ、「労働時間は午前9時から午後5時まで」と規則で定められていれば、所定労働時間は8時間です。
また、「法定内残業」は、所定労働時間を超えていても法定労働時間には達していない場合の残業のことをいいます。所定労働時間の8時間に休憩が1時間含まれていた場合、午前9時から午後5時まで働いたとすると、実労働時間は7時間です。午後5時から30分間だけ残業すると、その30分間は「法定内残業」に相当します。法定労働時間は「休憩を除いて8時間」と定められており、30分間の残業では「休憩を除いて8時間」を超えません。
労働基準法に基づくと、「残業」は「時間外労働」、すなわち法定労働時間を超えて働いた時間を意味します。終業時間を超えて働いたかどうかではないため、注意が必要です。
関連記事:残業代や残業時間の計算方法とは?手順をわかりやすく解説
残業に必要な「36協定」
企業や学校などの使用者が残業や休日勤務をさせるためには、労働基準法により以下のような手続きが必要です。
- 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合との書面で協定を結ぶ
- 上記のような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者と書面で協定を結ぶ
- 結んだ協定を行政官庁に届け出る
この手続きは、労働基準法36条の定であることから、「36(サブロク)協定」と呼ばれるものです。36協定を結んでいなければ、私立学校は教員に残業させることはできません。36協定を結んでいたとしても残業時間には上限が定められており、月45時間、年360時間を超える残業をさせることも、原則としてできません。
関連記事:36協定とは?残業時間の上限や留意すべき事項に関してわかりやすく解説
働き方改革はなぜ必要?私立学校にありがちな人事管理問題

この項では、残業代の未払いなど、私立学校の人事管理で発生しがちな問題について解説していきます。
残業代の未払い問題
私立学校では、残業代の未払い問題がしばしば起こることが指摘されています。公立学校の教員であれば給特法が適用されるため、残業代は発生しません。私立であるにもかかわらず、給特法に準ずる処遇を行ってきた学校は多くありますが、労働基準法違反に問われかねません。
私立学校の現場では、勤務時間の管理にも問題があるといわれます。私立学校は出勤・退勤時間の管理に対する意識が希薄であると指摘する研究者もいます。給特法に準ずる処遇を行ってきた学校では、「みなし残業代」を支払うのが通例です。
固定給に一定時間分の残業代を上乗せするのが「みなし残業代」です。みなし残業代が、実際の残業代よりも少なければ、学校は超過分の残業代を支払わなければなりません。
正規職員と非正規職員の格差
学校の現場では、正規の教員と非正規の教員が混在している事例が多くあります。正規の教員は毎年昇給したり昇格の機会が与えられたりするのに対し、非正規の教員は、昇給や昇格の面で不利になっているのが一般的です。
学校によっては、非正規の教員に学級担任や部活動の顧問など、正規の教員と同等の仕事を割り当てていることも少なくありません。正規の教員と同等の仕事をしているのであれば、「同一労働同一賃金」の原則に基づいて、待遇の改善を求めることが可能です。
非正規の教員は1年単位での契約であり、学校の都合で一方的に契約が打ち切られる場合もあります。こうした事態を「雇い止め」と呼びます。正規の教員と非正規の教員が混在していると、事務処理が複雑になる点も課題です。
私立学校の人事問題解決に向けた改善策

前述したような私立学校の人事問題を解決するための改善策として挙げられるのは、以下のような施策です。
- 勤務時間の正確な把握
- 労働基準法を遵守した給与支払い
- 働き方改革の推進
一般企業で採用されているような、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間などを利用した正確な勤務時間の把握は人事管理に必須です。勤務時間の正確な把握により、労働基準法に基づく適正な残業代の支払いができます。
また、勤務時間の正確な把握は、無駄な業務のあぶり出しや、時間の効率的な使い方につながり、教員の働き方改革の推進に役立つことが期待されます。働き方改革については、以下の関連記事も参考にしてください。
関連記事:働き方改革とは?目的や背景を、事例を交えてわかりやすく解説
「ADPS」で私立学校の人事業務をシンプルかつスムーズに

私立学校の人事業務は、一般企業とは異なる点も少なくありません。人事系のシステムを使う場合には、私立学校に適応しているかどうかの確認が重要です。
カシオヒューマンシステムズ株式会社が提供する人事統合システム「ADPS」には、私立学校にも対応しています。私学共済の定時決定や随時決定などの処理が可能なのはもちろん、人事異動案のシミュレーションによる要員配置のサポートや、複数拠点の在籍も多い私立学校教職員の兼務や名寄せも可能です。
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まとめ

公立学校の教員には給特法が適用され、残業代が発生しない仕組みです。私立学校の教員には給特法ではなく労働基準法が適用されますが、学校によっては給特法に準ずる処遇を行ってきた事例もあり、未払い残業代などの問題が指摘されてきました。
働き方改革の流れもあり、私立学校の教員も勤務時間の正確な把握が必要になっています。人事管理や業務効率化には、システムの活用が合理的です。また、私立学校ならではの処理に対応したシステムを選ぶことも重要です。システムを味方につけて、人事管理のブラッシュアップと働き方改革の推進を検討してはいかがでしょうか。
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カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
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