高年齢者雇用安定法改正│2025年以降の変更点について解説

2024.10.23

高年齢者雇用安定法改正│2025年以降の変更点について解説

2021年に一部改正された高年齢者雇用安定法における経過措置の期限が近付いていることをご存じでしょうか。本記事では、人事担当として押さえておきたい2025年以降の変更点についてまとめました。

あわせて、企業における高年齢者雇用安定法改正のメリットや、高年齢者雇用安定法改正により企業がとるべき対策についても解説します。

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高年齢者雇用安定法とは?改正の背景

高年齢者雇用安定法とは?改正の背景

高年齢者雇用安定法改正による2025年4月からの変更点を解説する前に、高年齢者雇用安定法の内容を確認しておきましょう。ここでは、次の3点について解説します。

  • 高年齢者雇用安定法の概要
  • 高年齢者雇用安定法の改正内容
  • 高年齢者雇用安定法改正の背景

人事担当者はあらためて理解を深めておきましょう。

高年齢者雇用安定法の概要

少子高齢化が進行し人口が減少する日本では、経済社会の活動を維持する労働力の確保が重要な課題です。人手不足に陥るなか、働く意欲のある人が働ける環境の整備が求められており、そのひとつが高年齢者の活躍です。高年齢者雇用安定法では、働く意欲のある高年齢者が能力を十分に発揮し、活躍できる環境の整備を目的としています。

高年齢者雇用安定法は、もともと1971年に「中高年齢者雇用促進法」として制定されており、1986年に現在の「高年齢者雇用安定法」という名称に変更されました。その後も、社会の変化に応じて改正が繰り返され、2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行されています。

2021年の改正前の高年齢者雇用安定法では、次の2つが義務付けられています。

  • 60歳未満の定年禁止
  • 65歳までの雇用確保措置

60歳未満の定年禁止とは、定年を60歳以上に定めなければならないというものです。また、定年を65歳未満に定めている場合は、次のいずれかを65歳までの雇用確保措置として講じなければなりません。

  • 65歳まで定年を引き上げる
  • 定年制廃止
  • 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入する

高年齢者雇用安定法の改正内容

続いて、2021年4月に改正された高年齢者雇用安定法の改正内容を見ていきましょう。前述した、60歳未満の定年禁止、65歳までの雇用確保措置の義務に加えて、事業主は「70歳までの就業機会確保」として、次の5つからいずれかの措置を講じることが努力義務になりました。

  • 70歳までの定年引き上げ
  • 定年制の廃止
  • 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

努力義務の対象となる事業主は、次のとおりです。

  • 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
  • 継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主

今回の改正は、70歳までの定年年齢引き上げを義務付けるものではありません。いずれも企業の「努力義務」であり、事業主には就業機会を70歳までの人に提供できるよう、積極的に取り組むことが求められます。

引用:厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」

高年齢者雇用安定法改正の背景

高年齢者雇用安定法の改正には、急速な少子高齢化が影響しています。労働人口のうち、若年層が占める割合は年々減少しており、高年齢者の雇用維持による労働人口の確保が必要です。

内閣府の調査によると、2023年の労働力人口(6,925万人)に占める65~69歳が394万人、70歳以上が537万人であり、労働力人口総数に占める65歳以上の者の割合は13.4%と、下の図のように年々上昇傾向にあります。また、同年の労働力人口比率(人口に占める労働力人口の割合)を見ても、65~69歳では53.5%、70~74歳では34.5%と、いずれも上昇傾向です。

内閣府「令和6年版 高齢社会白書」

引用:内閣府「令和6年版 高齢社会白書」

今後も労働人口の減少傾向は顕著になり、高齢化率も上昇すると考えられます。減少する若年層の労働人口を高年齢層の労働力で補って経済社会の維持するためには、高年齢者雇用安定法の改正は避けて通れません。

参考:内閣府「令和6年版 高齢社会白書」

高年齢者雇用安定法改正による2025年4月からの変更点

高年齢者雇用安定法改正による2025年4月からの変更点

高年齢者雇用安定法には経過措置がとられており、2025年3月31日に終了します。
2025年4月からの高年齢者雇用安定法の変更点として、次の2点が挙げられます。

  • 65歳までの雇用機会の確保
  • 高年齢雇用継続給付の縮小

それぞれ詳しく見ていきましょう。

65歳までの雇用機会の確保

雇用継続制度とは、現在雇用している高年齢の従業員を、定年後も本人の希望に応じて引き続き雇用する制度です。

雇用継続制度には、再雇用制度と勤務延期制度があります。再雇用制度とは、一度定年で退職した従業員と新たに雇用契約を結ぶ制度です。一方の勤務延期制度は、定年で退職とせずに引き続き雇用する制度をいいます。

高年齢者雇用安定法で定められている継続雇用制度では、段階的に適用年齢を引き上げる経過措置が設定されていました。しかし、その経過措置は2025年3月31日に終了します。

2025年4月1日以降は、65歳までの継続雇用制度の義務化により、定年後も継続して働きたいと望む従業員を65歳まで雇用しなければなりません。ただし、2025年3月31日までに対象者を限定する基準を定めていれば、経過措置が適用されます。

高年齢雇用継続給付の縮小

高年齢雇用継続給付とは、高年齢者の雇用継続を援助するため、60歳以降の従業員に賃金の補助として支給される雇用保険のひとつです。主に、働く意欲のある60代前半の高年齢者に対する雇用継続を援助し、雇用促進を目的としています。

改正前は、5年以上の被保険者期間がある60〜65歳の従業員に対して、定年後の賃金がそれまでの75%未満の場合には賃金の15%が支給されていました。しかし、2025年4月1日以降は、60歳に到達する人から10%の支給率に縮小されます。

参考:厚生労働省 「高年齢雇用継続給付の見直し(雇用保険法関係)」

企業における高年齢者雇用安定法改正のメリット

企業における高年齢者雇用安定法改正のメリット

高年齢者雇用安定法改正によって企業が受ける主なメリットは、次の2点です。

  • 労働力不足の解消につながる
  • 人材育成のコストを削減できる

それぞれのメリットについて解説します。

労働力不足の解消につながる

高年齢者雇用安定法改正によって、労働力不足の解消につながります。日本では、少子高齢化の影響で労働力不足が深刻化しています。

改正高年齢者雇用安定法の改正によって70歳までの人が就業機会を確保できれば、経験豊富な高年齢者が即戦力として活躍し、労働力不足解消につながるはずです。

人材育成のコストを削減できる

高年齢者雇用安定法改正によって、人材育成のコストを削減できます。定年にともない従業員が退職すれば、労働力を埋めるための新規採用が欠かせません。しかし、従業員に仕事を覚えてもらうまでに、育成の手間と時間がかかります。

その点、特定のスキルや知識を持った高年齢者であれば、従業員を一から育てるための時間や費用を削減可能です。また、高年齢者が培った人脈を活用すれば、新たな従業員の確保や事業の発展も期待できます。

高年齢者雇用安定法改正により企業がとるべき対策

高年齢者雇用安定法改正により企業がとるべき対策

継続雇用制度における経過措置終了後に、企業がとるべき対策について解説します。主な対策は、次の4つです。

  • 雇用契約や就業規則の見直し
  • 高年齢雇用継続給付の縮小に伴う賃金制度の見直し
  • 離職者への再就職援助措置
  • 高年齢者が異なる業務に就く場合の研修や教育

適切な対策がとれるように、内容を理解しておきましょう。

雇用契約や就業規則の見直し

経過措置適用企業は、継続雇用制度対象者を希望者全員へと改定し、就業規則や雇用契約の内容などを見直さなければなりません。

また、利用する制度によっては、雇用契約や就業規則の見直しが必要となるため注意しましょう。就業規則変更後は、所轄の労働基準監督署長に届け出をしなくてはなりません。

高年齢雇用継続給付の縮小に伴う賃金制度の見直し

高年齢雇用継続給付の縮小に伴い、従業員の収入が減少する可能性があります。そのため、不公平が生じない賃金制度の見直しが必要です。

高年齢雇用継続給付の縮小は、就業へのモチベーション低下につながる恐れもあります。また、65歳以上の従業員を雇用する場合、高年齢者に対して一方的に不合理な賃金格差を設けると法立違反になります。同一労働同一賃金の観点や将来的な70歳の雇用確保も踏まえ、今のうちに賃金制度を見直すことが重要です。

離職者への再就職援助措置

離職者への再就職支援措置にも企業の対応が必要です。これまで再就職援助措置の対象となる高年齢者は、解雇もしくはその他の事業主の都合で離職する45歳~65歳と、継続雇用制度の対象者基準に該当せず離職する60歳~65歳でした。しかし、今回の改正に伴い、対象となる高年齢者の範囲が拡大されて、65歳以上70歳未満で離職する高年齢者への再就職援助措置が努力義務となっています。

具体的には、求職活動に対する経済的支援や職業訓練受講の斡旋などです。経済的支援としては、「教育訓練の受講または資格試験の受験、求職活動を行うために付与した休暇を有給扱いとする」ことや、「教育訓練の受講や資格試験受験等の活動にかかる実費相当額を支給する」ことなどが想定されます。

一方の職業訓練受講の斡旋として、「求人の開拓や求人情報の収集・提供」「再就職に有利に働く教育訓練やカウンセリング等を実施、または受講等を斡旋」などが挙げられます。

高年齢者が異なる業務に就く場合の研修や教育

高年齢者がこれまでと異なる業務に就く場合は、新しい業務に関する研修や教育、訓練を実施する必要があります。特に、70歳まで就業機会を確保する場合は安全または衛生のための教育が必要です。

一例として、安全衛生教育が挙げられます。安全衛生教育とは、従業員が担当する業務の安全・衛生に関する知識を与えて、労働災害を防止するために実施される教育のことを指します。安全意識や職場全体の安全対策効果を高めるためには欠かせません。

高年齢者の雇用安定にまつわる助成金

高年齢者の雇用安定にまつわる助成金

高年齢者の雇用安定を推進するために、助成金の手続きを行うこともひとつの手段です。利用可能な助成金には、次のようなものがあります。

  • 65歳超雇用推進助成金
  • 高年齢労働者処遇改善促進助成金
  • 特定求職者雇用開発助成金

それぞれの助成金について見ていきましょう。

65歳超雇用推進助成金

65歳超雇用推進助成金は、高年齢者が従来の定年年齢を超えても引き続き働ける制度の実施を後押しする事業主に対して、助成金が支給される制度です。

65歳超雇用推進助成金には、次の3つのコースがあり、各コースで支給要件が細かく定められています。

  • 65歳超継続雇用促進コース
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  • 高年齢者無期雇用転換コース

支給要件や手続きなどについては、各都道府県に設置されている都道府県支部高齢・障害者業務課に問い合わせましょう。

参考:厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」」

高年齢労働者処遇改善促進助成金

高年齢労働者処遇改善促進助成金は、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇改善に向けた助成金です。処遇改善を継続的に行っている事業主に対し支給されます。

申請の際には、賃金規程等改定計画書を作成し添付資料を添えて管轄の労働局に提出してください。

参考:厚生労働省「高年齢労働者処遇改善促進助成金」

特定求職者雇用開発助成金

特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者だけでなく、障害者や生活保護受給者を雇い入れる事業主を対象とした助成金です。

高年齢者を新規に雇用する場合には、特定求職者雇用開発助成金の特定就職困難者コースが対象で、ハローワークや職業紹介者の紹介で雇用することが受給条件です。雇用関係助成金共通の要件などを満たしていることを確認し、労働局やハローワークへ支給申請のための必要書類を提出します。

参考:厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金」

人事統合システム「ADPS」が人事業務をフレキシブルにサポート

人事統合システム「ADPS」が人事業務をフレキシブルにサポート

カシオヒューマンシステムズ株式会社が提供する人事統合システム「ADPS」は、1990年の誕生場以降、累計5000社を超える導入実績を持ちます。煩雑になりがちな人事業務を効率的に、フレキシブルにサポートできるのが強みです。

シンプルな操作画面で使いやすいため、人事業務に不慣れな人でも容易に使えて、業務負荷を軽減し生産性向上へ導きます。人事統合システム「ADPS」であれば、人事業務をよりわかりやすく、よりシンプルにできます。この機会に、人事統合システム「ADPS」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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まとめ

まとめ

高年齢者雇用安定法は、働く意欲のある高年齢者が能力を十分に発揮し活躍できる環境の整備を図る法律です。高年齢者雇用安定法の改正には、急速な少子高齢化が影響しています。高年齢者の雇用維持によって、年層の労働人口減少を補うことが改正の目的です。

改正では、努力義務として次の5つの項目が新設されました。

  • 70歳までの定年引き上げ
  • 定年制の廃止
  • 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

継続雇用制度には経過措置がとられており、2025年3月31日に終了します。2025年4月からは、65歳までの雇用機会の確保や高年齢雇用継続給付の縮小などの変更点に対応することが重要です。

また、高年齢者雇用安定法改正により、雇用契約や就業規則の見直し、賃金制度の見直しなどの対策も求められます。なお、煩雑になりがちな人事作業を効率化させるのであれば、人事統合システムの活用がおすすめです。

カシオヒューマンシステムズ株式会社が提供する人事統合システム「ADPS」は、人事業務を効率的かつフレキシブルにサポートします。人事業務を、さらにわかりやすく、シンプルにできる人事統合システム「ADPS」の導入を、検討してはいかがでしょうか。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
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定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。