就業規則とは?記載内容や作成方法をわかりやすく解説

就業規則は、労働条件や職場内の規律について定めた社内規定です。従業員を雇用する企業が、法令および労働基準法に基づいて作成します。今回は、就業規則の作成方法や記載内容をはじめ、企業が作成義務を違反した場合の罰則について解説します。

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就業規則とは

就業規則とは

就業規則は、労働条件や職場内の規律について定めた社内規定です。就業規則は企業が作成しますが、労使双方が順守することで従業員の安全確保やトラブル防止に役立ちます。ここでは、就業規則の効力や、作成・届出義務がある企業が違反した場合の罰則について解説します。

就業規則に効力を持たせるには

就業規則に効力を持たせるには、企業は法令および労働基準法第89条に基づいて作成する必要があります。就業規則は企業が作成しますが、従業員の権利を不当に制限する事項を定めてはいけません。定めた事項が労働基準法に反した場合、その内容は法的に無効です。

たとえば、労働基準法では原則として1日8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならないと定められています。例外として認められる場合を除いて、正社員や契約社員、アルバイトやパートなど雇用形態にかかわらず法定労働時間を適用しなければいけません。

また、周知義務が適切に実施されていない場合も就業規則の効力は発生しません。つまり、就業規則を作成しただけでは効力を発揮しないということです。企業が就業規則の施行期日を定めていない場合は、従業員に周知した日から効力が発生します。

参考:労働基準法第89条

就業規則に関する罰則

就業規則の作成・届出義務がある企業が、その義務に違反した場合、労働基準法120条に基づいて30万円以下の罰金に処せられます。また、労働条件や服務規律の変更を就業規則に適用していない、または届出の提出を怠った場合も同様です。

就業規則の作成・届出義務に違反した場合、従業員と労働契約が適切に明文化されていない状態です。万が一、労働トラブルが発生した場合は罰金以上の金銭的損失が生じる可能性もあります。就業規則を作成したら、速やかな届出と全従業員への周知を徹底しましょう。

参考:労働基準法第120条

就業規則の作成義務がある企業

就業規則の作成義務がある企業

常時10人以上の従業員を雇用する企業は、就業規則の作成が義務付けられています。作成した就業規則は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません。なお、「常時10人以上の従業員」には、正社員、契約社員やアルバイト・パート等の非正規社員が含まれます。ただし、業務委託の社員や派遣労働者、臨時社員は含まれません。

従業員が常時10人以下の企業は、就業規則の作成義務はありません。ただし、厚生労働省は、従業員が常時10人以下の企業においても就業規則の作成を推奨しています。就業規則の作成により、社内秩序を維持できたり労働トラブルを防げたりする効果が期待できるためです。

参考:労働基準法第89条

就業規則の記載内容と作成時の注意点

勤怠管理の目的や重要性

就業規則の記載事項は、以下の3つに大きく分かれます。

  • 絶対的必要記載事項(記載必須の事項)
  • 相対的必要記載事項(必要に応じて定める事項)
  • 任意的記載事項(任意で定める事項)

具体的な記載内容や注意点を詳しく解説します。

絶対的必要記載事項

記載必須の絶対的必要記載事項には、以下のようなものがあります。

  • 労働時間
  • 退職関連
  • 賃金

それぞれの内容を詳しく確認していきましょう。

労働時間

始業時間や終業時間、休憩時間、休暇など、労働時間に関する規定を記載します。始業時間や終業時間の時刻は、「1日8時間」のように大まかな表記ではなく、具体的な時刻を定めなければいけません。休憩時間においては、時間の長さや与え方まで記載します。

休暇については、労働基準法で付与が義務付けられている年次有給休暇だけでなく、企業が制度として付与する休暇についても記載します。休暇の付与日数や取得時の手続き方法など規定を定め、就業規則に詳しく記載してください。

始業時間や終業時間、休憩時間が多様なフレックスタイム制やシフト制、裁量労働制を導入している場合についても労働時間の規定が必要です。労働時間の種類や計算方法、労働基準法の上限について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:労働時間とは?労働基準法における上限や休憩の定義を解説

退職関連

就業規則には、退職に関する規定が必要です。死亡・期間満了による自然退職をはじめ、双方合意による退職や辞職など退職関連の事項を記載します。企業の一方的意思表示による解雇も含まれ、従業員との労働契約が終了する事由を記す必要があります。退職手続きで必要な対応について詳しく知りたい方は、以下の記事を確認してください。

関連記事:退職手続きで会社側に必要な対応とは?流れや書類、各種保険の計算方法を紹介

賃金

就業規則には、一時金や退職手当等の臨時賃金を除く、賃金に関する事項の記載が必須です。具体的には、賃金の決定や計算方法、支払方法などが挙げられます。賃金の決定や計算方法、支払方法については、学歴や職歴等の決定要素と賃金体系を規定することが必要です。

賃金の支払方法は直接支給や銀行振込など具体的に記載し、昇給に関する事項については昇給の期間や昇給率を規定します。賃金に関する事項は多岐にわたるため、従業員の給与や賃金に関する取り決めを文書化した給与規程により詳しい内容を記載するのが一般的です。

相対的必要記載事項

各企業が必要に応じて定める相対的必要記載事項には、以下のようなものがあります。

  • 退職金関連
  • 臨時の賃金、最低賃金
  • 安全衛生
  • 職業訓練
  • 災害補償・疾病扶助
  • 表彰・制裁
  • 費用負担
  • その他

それぞれの内容を詳しく確認していきましょう。

退職金関連

退職する従業員に退職金を支給する場合、退職手当が支払われる対象や支払方法、支払時期など退職金関連の事項を就業規則に記載します。退職に関する規定は「絶対的必要記載事項」に設けられていますが、退職金は「相対的必要記載事項」に含まれます。

労働基準法では、退職金に関する取り決めはありません。退職金の支給有無は自由に決められるため、企業によって対応に差があります。ただし、就業規則に退職金の支給を明記した場合、労働基準法が適用されるため、企業側に支払義務が生します。

臨時の賃金、最低賃金

退職金を除く臨時の賃金や最低賃金額を定める場合は、その詳細の就業規則への記載が必要です。臨時の賃金とは、臨時的または突発的な事由に基づいて支払われる賃金を指します。臨時の賃金例としては、賞与や精勤手当、加療見舞金などが含まれます。

これらの賃金は法律上支払う義務はありませんが、制度を設ける場合は支給条件や支給時期等を就業規則に記載しなければいけません。なお、最低賃金額は最低賃金法における「最低賃金」ではなく、企業が独自に定めた一番低い賃金を指します。

参考:最低賃金法

安全衛生

安全衛生に関して、従業員が守るべき事項がある場合は就業規則に記載します。ただし、すべての事項を記載すると膨大な量になるため、労働安全衛生法や労働安全衛生規則に基づいて作成する「安全衛生管理規程」を別に設ける企業が多いです。

企業に安全衛生管理規程を作成する義務はありませんが、厚生労働省や労働局は作成を推奨しています。安全衛生管理規程は企業が独自に作成する書類であり、定められた書式はありません。各企業で使いやすい書式を用意して安全衛生管理規程を作成しましょう。

職業訓練

従業員に教育訓練を義務付ける場合は、教育訓練に関する事項を記載します。職業訓練に関する事項とは、職業訓練の種類や訓練内容、訓練期間、対象者等です。職業訓練中の従業員に特別の権利義務を設定する場合は、それに関する事項も記載します。

訓練修了者に対して特別の処遇を与える場合は、それに関する事項の記載も必要です。職業訓練は、業務上の必要に応じて適宜実施しなければいけません。就業規則に記載する際は、実施自体の要否について使用者の裁量権を留保する旨も記載しましょう。

災害補償・疾病扶助

災害補償や疾病扶助に関する制度を実施する場合、これに関する事項を就業規則に記載します。災害補償については、労基法の災害補償に関する規定や、労働法や労働者災害補償保険法を上回る保障を提供する場合の規定などを記載することが必要です。

疾病扶助については、企業が健康保険法や厚生年金保険法の適用を受ける場合は、これらの法律で定める給付以外、または補充する扶助に関する規定を設けます。法律の適用を受けない場合は、企業が自主的に行う扶助に関する規定を作成しましょう。

参考:健康保険法

参考:厚生年金保険法

表彰・制裁

企業から従業員に表彰・制裁を行う場合は、その種類と程度に関する事項を記載します。表彰は、従業員の士気を高め、業績や生産性向上等を図ることを目的として 設けられます。就業規則には、表彰の事由や方法等を記載しなければいけません。

制裁は、就業上の諸規律の重要な事項であり、けん責や減給、出勤停止、昇給停止、降格降職、懲戒解雇等について就業規則に記載します。なお、就業規則に懲戒規定を設ける前の行為に対して、さかのぼって懲戒処分は下せません。

費用負担

労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項がある場合は、費用負担に関する事項を記載します。

その他

前述の各単元の他に、事業場の労働者すべてに適用される定めがある場合は、その事項を記載します。

任意的記載事項

任意的記載事項は、法令や労働協約に違反しないかぎり、企業が自由に定められる事項です。任意的記載事項の例としては、次のようなものがあります。

  • 役員数
  • 事業年度
  • 株主名簿の起算日
  • 株券の再発行手続き
  • 株主総会の議長
  • 議決権の代理公使
  • 定時株主総会の招集時期
  • 取締役会の招集権者
  • 株主総会の開催規定

任意的記載事項は、会社の組織や運営に関する根本規則を定める定款に記載する義務はありません。ただし、定款内で定めると規定が明確になるため、記載する企業も存在します。なお、定款に記載した内容を変更する際は定款変更の手続きが必要です。

就業規則の作成から届出までの流れ

就業規則の作成から届出までの流れ

就業規則の作成から届出までの流れは、以下の通りです。

  • 就業規則の原案を作成する
  • 従業員の代表もしくは労働組合から意見を聞く
  • 労働基準監督署に届け出る
  • 従業員に就業規則を周知する

それぞれの項目について詳しく解説します。

1.就業規則の原案を作成する

厚生労働省のモデル就業規則を参考しながら、就業規則の原案を作成します。モデル就業規則とは、関係法令等の規定を踏まえて厚生労働省が作成した一例です。記載漏れがないように、モデル就業規則と照らし合わせながら作成を進めてください。

ただし、モデル就業規則はあくまで一例であり、各企業の実態に合わせて事項を明記しなければいけない場合もあります。記載の漏れ対策としては、就業規則作成に詳しい社会保険労務士や弁護士に依頼したり、作成支援システムを利用したりする方法があります。

参考:厚生労働省「モデル就業規則」

2.従業員の代表もしくは労働組合から意見を聞く

就業規則を作成する際、従業員の過半数で構成される労働組合に意見を聞くことが義務付けられています。該当する労働組合がない場合は、過半数代表者に意見を聞かなければいけません。過半数代表者とは、投票や挙手等で過半数の代表者として従業員から選出された人を指します。

なお、過半数代表者は投票や挙手など民主的な方法で選出する必要があり、企業から特定の人物を指名できません。また、就業規則の提出時は、労働組合や過半数代表者の意見を記した書面(意見書)を添付する必要があります。

3.労働基準監督署に届け出る

就業規則を作成したら、企業を管轄する労働基準監督署に提出します。就業規則には、労働組合や過半数代表者の意見をまとめた意見書を添付することが必要です。なお、意見書に反対意見が記載されていても、労働基準監督署によって不受理になることはありません。

ただし、就業規則に対する反対意見がある場合、労使間トラブルが起きる可能性があります。労働基準監督署に届け出る前に、反対意見の内容について話し合いの場を設けておくと安心です。

4.従業員に就業規則を周知する

労働基準監督署に届け出たら、従業員に就業規則を周知しましょう。労働基準法では、就業規則を見やすい場所に掲示したり、誰でも手に取れる場所に備え付けたりして全従業員への周知徹底が定められています。ネットワーク環境がある場合は、社内のポータルサイトや共有フォルダ等に保存して従業員が常時確認できる環境を整えるのも有効です。

就業規則の作成目的やメリット

就業規則の作成目的やメリット

就業規則の作成目的やメリットには、以下のようなものがあります。

  • 労働条件を明確化できる
  • トラブルが生じた際に役立つ
  • 採用活動の軸になる
  • 利用できる助成金の幅が広がる

それぞれの項目について詳しく解説します。

労働条件を明確化できる

就業規則の作成により、賃金や労働時間等の労働条件を明確化できます。就業規則には、労働基準法の範囲内で会社独自の決まりを盛り込むことが可能です。その決まりが明確になれば何が禁止されているのかを知れるため、従業員は安心して働けます。

また、就業規則の作成は企業の人事担当者にもメリットがあります。たとえば、就業規則があれば、企業で変則的かつ多様な働き方の従業員が増えても対応しやすいです。

トラブルが生じた際に役立つ

就業規則を作成することで、労使間のトラブルが生じた際に役立ちます。たとえば、規律違反した従業員や企業命令を拒否する者がいた場合、就業規則を基準に対応することが可能です。企業側が就業規則に基づいて対応すれば、従業員の納得感も得られます。

また、法律上、就業規則は従業員が守るべき労働条件の一部と解釈されています。就業規則に基づく対応であれば、労使間トラブルが訴訟に発展した場合でも企業に問題があると判断されません。ただし、就業規則が労働基準法に違反している場合は無効になる可能性があります。

採用活動の軸になる

就業規則を作成することで採用基準が明確になり、採用活動時に役立ちます。近年は少子高齢化で労働人口の減少が進んでおり、採用において売り手優位の状況が続いています。自分の希望に合う企業を選びたい求職者は多く、面接時に労働条件に関する質問を受けることも多いです。

労働条件が曖昧だと明確な答えを提示できず、従業員の獲得に影響を及ぼす可能性があります。逆に、就業規則がある企業は労働条件が明確であり、求職者の信頼感を得やすくなるものです。結果的に求人の応募者数が増え、より優秀な従業員の獲得が期待できます。

利用できる助成金の幅が広がる

就業規則を作成すると申請可能な助成金が増えます。国や地方公共団体が提供する助成金には、特定の就業規則の規定を申請条件にする制度があります。

たとえば、厚生労働省が支給する「65歳超雇用推進助成金」では、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等が必要です。中小企業両立支援助成金では、「育児休業取得者を育児休業終了後に原職等に復帰させる旨の取扱い」を就業規則に盛り込むことを条件としています。助成金の利用を検討している場合は、就業規則の作成で選択肢の幅を広げられます。

参考:65歳超雇用推進助成金

参考:中小企業両立支援助成金

就業規則の見直しに関する注意点

就業規則の見直しに関する注意点

就業規則は、定期的に見直して修正・改善していく必要があります。ただし、従業員にとって不利な見直しになる可能性を含む場合は、従業員の同意なく変更できません。不利益変更を検討している場合は、労使間で十分な話し合いの場を設け、慎重に進めていく必要があります。

また、就業規則を変更した場合は労働基準監督署への届出が必要です。変更箇所をまとめて届け出ることはできず、変更時は都度届け出なければいけません。届け出る際は、新規作成時と同様に過半数労働組合、または過半数労働者の代表者の意見書を添付する必要があります。労働基準監督署に提出した後は、新規作成時と同様に従業員に変更内容に周知が必須です。

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まとめ

就業規則は、労働トラブルを防ぎ、従業員が働きやすい環境を作るために必要な規定です。ただし、従業員が不利益を被らないように、就業規則は法令および労働基準法に基づいて作成しなければいけません。また、労働トラブルが発生しないように周知徹底も必要です。

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カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。