グループ人事とは│グループ経営におけるポイントを解説
2024.12.12

企業グループを全体として捉え、横断的に人事施策を行うことをグループ人事と呼びます。グループ経営において、人事マネジメントは重要な要素の一つです。本記事では、グループ人事に関する制度構築やシステム導入などについて、幅広く解説します。
目次
製品の詳細を知りたい方はこちら
グループ人事とは

グループ人事とは、資本関係で結びついた企業群の人事を横断的に行う仕組みのことです。グループの中には川上と川下、事業会社と金融機関のように関連し合う企業が存在することが多く、相互に連携しています。
企業グループ内で人的リソースを適切に配置するために、グループ人事が行われます。グループ各社の独立性を保持しながら、グループ全体の経営を強化していくことが、グループ人事の要諦です。
そもそも「グループ会社」とは
「グループ会社」という法的な用語はなく、定義として確立したものではありません。一般的には、持ち株会社と傘下の事業会社や、親会社と子会社、関連会社など、資本的な結びつきのある企業群を一体として捉える場合に「グループ会社」と呼びます。
子会社とは親会社によって発行済み株式の50%超を保有されている企業のことで、関連会社は親会社が20%以上の株式を保有する企業などのことです。子会社と関連会社をあわせて「関係会社」と呼ぶこともあります。これらは会社法とその関連規定である会社計算規則で定められています。
グループ経営とは、これら子会社や関連会社を含めた企業群を一つのグループとみなして、一体的に経営することです。グループ経営のメリットとして挙げられるのは、以下のような要素です。
- シナジーの発生とリスクの分散
- 意思決定のスピード向上
- 従業員育成の強化
グループ内の複数の企業が連携し合うことで、お互いに機能や効果を高めるシナジーの発生が見込めます。また、各社が多様な事業展開を行うことにより、リスク分散につながります。
個別の事業については事業会社が決め、グループ全体の調整を必要とするような事項は持ち株会社がマネジメントするなど、役割分担を行うことで意思決定のスピード向上が可能です。子会社で経験を積ませて、親会社の統括部署に戻すというような、従業員育成の強化も期待できます。
グループ経営で人事マネジメントが重要視される背景
グループ経営では、グループ内の人的リソースを活用するための人事マネジメントが重要です。個別企業の経営を強化することが必要なのはもちろんですが、企業グループを全体として俯瞰し、従業員の適切な配置が求められます。
事業形態が異なる企業であれば、人事制度や雇用のスタイルも異なるのが一般的です。グループ経営では業種ごとに別の企業となっていることが多く、人事制度をそれぞれに合った形にできます。
グループ内には、成長産業に属する企業もあれば、衰退過程にある産業を主力とする企業もあるのが通例です。人事配置を成長産業の企業に傾斜させるなどの人事マネジメントにより、企業ならびに従業員の活性化や、生産性の向上などが見込めます。
グループ会社における人事制度構築のポイント

グループ経営における人事マネジメントには、以下の2つのパターンがあります。
①企業グループ全体で一つの同じ人事制度を採用
親会社の人事制度を子会社にも適用させるのであれば、グループ企業間の人事異動が容易です。グループとして一貫した人事ポリシーが持てるため、従業員を育成するうえでもメリットがあります。
②各企業でそれぞれの人事制度を構築
各子会社がそれぞれに人事制度を構築すると、グループ間の人事異動は出向の形になり、給与や待遇などについての規定を作成するなど、細かな調整を要します。事業形態や地域などによって、グループ内の全社で同じ人事制度を採り入れにくい場合には、慎重な検討が必要です。
以下に、グループ全体として同一の人事制度を構築する場合のポイントを示しました。
自社の現状を分析する
グループ経営における人事制度の構築では、自社の現状分析が重要です。グループとしての人事政策はどの程度全体に行き渡っているのか、子会社の自主性をどの程度認めるのかといった現状の検証を行います。
グループとしての連携効果を発揮するには、従業員に関する基本的な考え方や採用政策などを確立する必要があります。従業員や人事マネジメントに求める方針を明確化したうえで、グループ各社の人事制度を改革するのが一般的な手順です。
地域や業種による賃金水準の違いを考慮する
グループ内に多様な業種・業界の企業が存在したり、各地に拠点が分散していたりする場合、賃金水準の違いを考慮することが重要です。賃金水準は業種によって異なるため、業界の一般的なラインを割り込む水準では採用が難しく、中途退職者が増える懸念もあります。
親会社や持ち株会社の賃金水準を子会社、関連会社にも適用すると、人件費が上がりすぎ、グループ全体の利益を減少させかねません。令和5年(2023年)の賃金構造基本統計調査の結果を見ると、全年齢平均で1か月の賃金の高い産業は以下のとおりです。
- 電気・ガス・熱供給・水道業41万200円
- 学術研究、専門・技術サービス業39万6,600円
- 金融業、保険業39万3,400円
最も低かったのは、「宿泊業、飲食サービス業」の25万9,500円でした。
地域で賃金水準を見ると、東京都や大都市圏が高く、地方は低い傾向にあります。グループ全体の人事制度を策定するには、産業ごと、地域ごとに賃金水準が異なることを踏まえての検討が必要です。
グループ内の各企業で賃金水準がほとんど変わらないのであれば、賃金水準の高い企業にあわせて一本化する方法が採用できます。業種・業界で大きく賃金水準が異なる場合は、独自の賃金制度を作り、資格やスキルに応じて手当を加算するなどの調整を行うこともあります。
地域による賃金水準の差を考慮に入れるケースでは、以下の方法を採ることが一般的です。
- 大都市圏の従業員には地域手当を支給
- 転勤時に地域手当が減額される場合には、一定期間の激変緩和措置を講じる
- 転勤を前提とする総合職社員の基本給には割増を適用
いずれの事例でも、グループ全体としての人事ポリシーに沿って制度設計することが重要です。賃金水準の異なる企業間で出向や転籍を行う場合は、慎重な対応が求められます。
グループ会社間で綿密なコミュニケーションを図る
グループ全体に同一の人事制度を適用させると、子会社や関連会社が自律的に施策を講じにくくなる場合があります。子会社の経営陣や幹部が不満を抱えることもあり、注意が必要です。
子会社や関連会社から不満の声が上がらないようにするには、グループ人事を採り入れる目的や利点を説明し、事前に理解を得ておくことが大切です。
子会社などが、それぞれの経営方針やビジョンを生かせる余地を作っておくことも、検討に値します。人事制度の大枠はグループ全体で同じでも、人事評価のやり方は各子会社・関連会社に委ねるのが一つの方策です。
グループ経営における人事評価制度の設定手順

この項では、グループ経営における人事評価制度をどのように設定するかを、順を追って解説します。
グループ全体が求める人物像を明確化する
人事評価制度の設定において重要なのは、求める人物像の明確化です。求める人物像という「ものさし」が決まっていないと、評価基準が定まりません。
グループとしての経営理念やビジョンを踏まえ、「どのような従業員が必要なのか」を明確にします。従業員へのヒアリングや、人事コンサルタントの助力を得ることも考えられます。
グループ全体に適用される制度であるため、統一感を持たせることが必要です。一方で、子会社や関連会社には、親会社とは異なる風土があることも少なくありません。
子会社や関連会社が独自性を発揮できる部分と、グループとして一本化させたい施策のバランスを意識することが大事です。
人事評価項目を検討する
人事評価項目は、子会社や関連会社の企業規模や現行制度での運用状況などをベースに検討します。営業を中心とする企業と開発を主体とする企業では、人事評価項目は異なります。人事評価の基本的な項目は、以下のとおりです。
- 業績評価
- 能力評価
- プロセス評価
- 情意評価
業績評価は、売上高や利益額などが評価項目となるもので、多くの企業で採り入れています。能力評価は、スキルや資格、知識の蓄積などを基準とするものです。評価項目が曖昧になりがちであるため、明確な基準を設けることが必要です。
プロセス評価は、業務に対する行動を評価の対象とする手法で、「コンピテンシー評価」とも呼ばれます。業務遂行に向けた理想のモデルを仮置きし、そのモデルとの比較で評価するやり方です。
情意評価は、業績や能力ではなく、業務に臨む姿勢を評価します。積極性や責任感などが評価対象ですが、評価者の主観が入りやすいため、近年ではあまり重視されなくなってきました。
これらの評価をどう組み合わせるかは、グループとして一つに定めるのではなく、子会社や関連会社の実情にあわせて決定します。
従業員に詳細を説明する
人事評価制度を変更する場合には、従業員に詳細を説明し、納得してもらうことが必要です。場合によっては、従業員にとって不利益変更となることもあり得ます。真摯で適切な説明を行い、理解を求めることが欠かせません。
従業員が公平だと思える制度でなければ、経営陣に対する不満が高まり、離職者が増加するなどの懸念もあります。評価に限らず、人事制度は不断の刷新が求められます。制度導入後も、定期的に研修を行ったり、従業員からヒアリングしたりし、問題点があれば迅速に修正していくことが重要です。
グループ経営に人事システムを導入する際の注意点

グループ経営に人事システムを導入することにより、グループ傘下の各社間での適切な人事配置や、効率的な従業員育成の実施などが期待できます。以下で、グループ経営に人事システムを導入する際の注意点を解説しました。
人事システムの導入目的を明確化する
重要なポイントの一つは、人事システムを導入する目的を明確化することです。目的によって、導入するシステムは異なります。
目的の明確化には、現状のシステムの課題を洗い出し、課題解決の方策を検討していくことがスタートです。グループで共有するシステムとする場合、子会社や関連会社からも課題をヒアリングします。
目的を明確化することで、希望する機能を備えたシステムを絞り込めます。逆に、目的が明確でなければ、システムの導入が失敗しかねません。
機能や既存システムとの連携性を確認する
新たに導入する人事システムを、既存の他のシステムと連携させたいケースもあり得ます。既存システムは使い慣れているため、うまく連携させればスムーズなシステム導入が可能です。連携性の確認は怠れません。
グループの規模が拡大する将来を見据えて、現状では不必要でも備えておきたい機能がある場合も想定できます。導入後の機能拡張ができるかどうかも、目配りしておくとよいポイントです。
規模の大きなグループでは、パッケージシステムの導入では希望機能が不足し、カスタマイズが必要となることも少なくありません。カスタマイズ部分の機能や使い勝手はパッケージ部分と異なることも多いため、グループ内での綿密なチェックが求められます。
予算の制約があったり、費用削減が目的であったりする場合は、パッケージシステムに手を加えずに使用するのがおすすめです。パッケージでできる機能に業務内容をあわせることで、無駄な手順を省くなどの効率化が可能になることもあります。
誰もが操作しやすいシステムを選ぶ
グループ人事のために導入したシステムがいかに高機能でも、操作性が悪ければ真価を発揮できません。操作を誤ったり、ベンダーへの問い合わせを繰り返したりしていては、効率が落ちるばかりです。
導入を検討する段階で、実際に操作を担当する従業員に確認してもらうことをおすすめします。グループ全体で使うシステムの場合は、ベンダーの協力を得て研修期間を設けるなど、従業員が習熟する機会を作るのも一案です。
サポート体制の充実度を確認する
人事システムに限りませんが、システムを導入する際にはサポート体制のチェックも重要です。トラブル発生時に迅速にサポートが受けられなければ、グループ全体の人事業務が滞りかねません。
初期設定や既存システムとの連携、自社グループに独自のルール設定など、担当者だけで行うには負担が大きすぎる場合もあります。ベンダーの導入サポートやアフターサポートが充実しているかどうかは、グループ従業員の負荷や生産性に大きな影響を与えるため、慎重な検討が必須です。
提供形態やカスタマイズ性を確認する
人事システムは近年、インターネット経由でサーバーを共用するクラウド型が増えています。大規模な企業グループでは、サーバーを自社グループで購入するオンプレミス型を採るケースも少なくありません。
低コストであるほか、サーバーの増強やアプリケーションの更新など、煩雑な作業にかかわらずに済むのがクラウド型の利点です。オンプレミス型はコストや保守管理の手間がかかる反面、自社グループにあわせたカスタマイズがしやすいメリットを持ちます。インターネットを経由しないため、情報漏えいなどセキュリティ面で堅固なこともオンプレミス型の長所です。
クラウドとオンプレミスの特徴をあわせ持つシステムも出ているため、自社グループで必要とする機能や人事システムに関するポリシーなどに照らして、適切なタイプを選んでください。
カシオヒューマンシステムズの「ADPS」が人事業務をフルサポート

グループは多数の企業で構成されるため、人事関連の業務も複雑になりがちです。採用や給与計算など、間違いが許されない人事業務を効率的に行いたいと考えているなら、カシオヒューマンシステムズが提供する人事統合システム「ADPS(アドプス)」を検討してはいかがでしょうか。
すでに累計5,000社を超える導入実績を持つADPSは、グループ全体としての人事情報の管理はもとより、子会社単体での運用も可能な柔軟性が特徴です。グループ全体でも、個別でも利用できる帳票類も多彩に用意されています。
製品の詳細を知りたい方はこちら
適切にグループ人事を行い企業の経営力をアップさせよう

グループ人事は、企業グループ全体の人事制度を横断的に行う仕組みです。グループ内の人的リソースの適切な配置により、グループとしての経営強化を主な目的としています。
グループの人事制度を構築する際は、子会社や関連会社の特性や風土も配慮しつつ、グループとしての一体感を持たせることが重要です。グループとしての人事業務は、複雑化することがままあります。人事業務の効率性を向上するには、人事システムの導入がおすすめです。
システム導入時には、機能や操作性、ベンダーのサポート体制などをよく確認することが欠かせません。適切なシステムを選択して、業務の効率化を強化しましょう。
製品の詳細を知りたい方はこちら
カシオヒューマンシステムズコラム編集チームです。
人事業務に関するソリューションを長年ご提供してきた知見を踏まえ、
定期的に「人事部の皆様に必ず今後の業務に役立つ情報」を紹介しています。