ストレスチェックとは?メリット・デメリットから導入方法、事例まで徹底解説

2022.11.29

働き方が多様化する一方で、長時間労働などによって従業員が健康障害を起こすケースは増加しており、
企業におけるメンタルヘルス対策の重要性はますます高まっています。
2015年12月以降、従業員が働くことによって、健康を害してしまうようなことがないよう、
労働者が 50 人以上いる事業所では、メンタルヘルス不調の一次予防を目的として「ストレスチェック」制度が導入されました。

この記事では、従業員のメンタルヘルス不調の一次予防を目的として導入された「ストレスチェック」制度を中心に、
企業で取り組みたい従業員のメンタルヘルス対策について解説いたします。

ストレスチェックとは何を示す?

「ストレスチェック」とは、ストレスに関する選択式のアンケートに従業員が記入し、
それを社内で集計・分析することで、従業員個人のストレスがどのような状態にあるかを調べる簡単な検査です。

労働安全衛生法が改正され、2015年12月以降、労働者が 50 人以上いる事業所で1年以内ごとに1回実施することが義務付けられました。

対象者は以下の要件を満たす労働者です。

  • ・期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること
  • ・その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること

引用元:厚生労働省「ストレスチェック制度導入ガイド」

ストレスチェックの目的とは

ストレスチェックをする目的について、厚生労働省は下記のように定義しています。

『労働者が自分のストレス状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言をもらったり、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらったり、職場の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。』
引用元:厚生労働省 「ストレスチェック制度簡単導入マニュアル」

従業員・企業どちらにとっても有意義な制度であり、それぞれ以下のような目的があります。

<従業員にとって>

  • 1.自分のストレス状態を把握し、自分のストレスがどのような状態にあるのか客観的に理解する
  • 2.自分でストレスに対応していくセルフケアのきっかけにする
  • 3.すでに高ストレスの状態だった場合、医師の意見を会社に伝えることで、ストレスの要因を改善するための就業上の措置につなげる
  • 4.職場や部門ごとの分析結果によって、職場環境の改善の取り組みへ影響を与える

ストレス状態が無意識のうちに悪化してしまうことを防ぐことはもちろんのこと、従業員が声を上げて伝えにくい改善してほしい事項を、
分析結果によって可視化されることで、職場や部門が認知する機会にもなります。

<企業にとって>

  • 1.従業員が高ストレスになり、メンタルヘルス不調になる前に、対応をとる機会にする
  • 2.職場や部門ごとの課題や問題点を把握する
  • 3.従業員のストレスとなっていた業務量や仕事の質の見直しなど職場環境の改善に取り組む機会にする

企業には、従業員がストレスをためすぎないようにする対応、従業員のストレスが高い場合の対応など、
段階に応じた適切な対応が求められます。

ストレスチェック導入のメリット・デメリット

ストレスというのは無意識のうちに抱えてしまいかねません。
ストレスチェックの結果をうまく活用することができれば、従業員のメンタルヘルス不調を予防することができます。
その一方で、実施自体が準備含め負担・手間となってしまうことも懸念事項としてあげられます。
ここからは、従業員・企業それぞれにとっての、ストレスチェック導入に関するメリット・デメリットを解説していきます。

ストレスチェック導入のメリット

従業員・企業それぞれのストレスチェックのメリットは以下のとおりです。

<従業員にとって>
ストレスは自分の基準ではなかなかわかりにくいため、ストレスチェックの質問票の項目に回答することで、
客観的に、ストレスがどの程度溜まっているか、何が原因でストレスになっているのかを知ることができます。
また、従業員はセルフケアのアドバイスを受けることができ、すでに高ストレスの状態だった場合には、
医師の意見を会社に伝えることで、ストレスの要因を改善するための就業上の措置につなげることができます。

<企業にとって>
従業員が無意識のうちにストレスを抱えてしまっているような場合でも、
ストレスチェックの制度を用いてメンタルヘルスの不調を未然に防ぐことができます。
また、ストレスチェックの結果を分析することで、職場環境改善に向けての具体的な対応策が立てやすくなります。

ストレスチェック導入のデメリット

しかし一方で、下記のようなデメリットもあります。

<従業員にとって>
ストレス状況を判定することで、人によっては高ストレスという診断結果に落胆してしまいかねません。
また、個人情報の漏洩や高ストレスという判定結果を懸念して、アンケートに現状を回答しない方がいた場合、
正確なストレス判定ができず、本来高ストレスと判定されるべき方が見逃され、結果ストレス状態を継続させてしまう可能性があります。

<企業にとって>
高ストレスという診断を受けた従業員が、ショックを受けた結果、休職や退職をしてしまうと、人材不足となりかねません。
また、正確な回答を得ることができていない場合、制度自体が意味のないものとなってしまいます。

このように、ストレスチェックの制度は従業員の状態を把握するのに有効である一方、従業員へ一種の心的ストレスを与えてしまいかねません。
企業は従業員の心理的安全性を保ちながら、効果的にストレスチェックの制度を活用し運用していく必要があります。

ストレスチェックの導入ステップ

ステップ①事前準備

制度導入に伴い、ストレスチェック制度の導入や運用方法などを具体的にまとめたマニュアルやガイド・Q&Aが
厚生労働省より公開されています。
ストレスチェック実施の主な流れと体制については、 厚生労働省「ストレスチェック制度導入ガイド」が参考になります。

まず、企業は従業員に対してストレスチェックを実施する旨を伝達する必要があります。
次に、対象者や実施時期、質問票の項目・高ストレス者の基準・面接指導の運用や分析結果の運用について取り決めます。
検討事項が確定したら、質問票を作成し、従業員へ期限を決めて回答依頼をします。
なお質問票は、「ストレスの原因」「ストレスによる心身の自覚症状」「従業員に対する周囲のサポート」の3点に関する質問項目が
網羅されていれば自由に作成することができますが、厚生労働省が公開している「職業性ストレス簡易調査票」や、
オンラインのストレスチェック実施プログラムを活用することもできます。

ステップ②調査票の回収・入力・評価の判定・通知

従業員の記入が完了したら、調査票を回収します。
この時に、回答内容の漏洩がないよう、紙の場合は封筒に入れて封をして提出してもらうなどの策をとり、
取り扱いには十分注意を払って実施者(または実施事務従事者)が回収する必要があります。
第三者や人事権を持つ職員が、内容を閲覧することはできません。
心理的安全性を保って回答してもらえるよう、他者が閲覧しないことは事前告知をしておくことも重要です。
回収完了後は事前に決めた基準に基づき、ストレス状態の判定を行います。
結果は従業員本人に直接通知し、高ストレスと判定を受けた従業員に対しては、医師の面接の指導を申し出るように推奨します。

ステップ③面接指導の実施と就業上の措置の実施

高ストレス者と判定を受け、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた方を対象に、
産業医又は事業場において産業保健活動に従事している医師が、本人への指導・助言を行います。
確認事項は、ストレスチェックの3項目に加えた、「勤務状況」「心理的負担の状況」「その他心身の状況」です。
面接指導終了後、医師の意見に基づき、実情を考慮して、当該従業員の就業場所の変更や業務内容・時間の見直し等の措置を検討・決定します。
なお、措置内容は一方的に企業が決定するのではなく、あらかじめ従業員の意見を聴き、話し合いを通じて了承を得られるよう、
また、従業員にとって不利益が生じないよう留意しなければなりません。

ストレスチェックの活用方法

活用方法①集団分析データの活用

ストレスチェックの実施だけでデータ活用にいたらなければ、制度本来の目的である「職場環境改善」「健康経営」を実現することは困難です。
ここでは、集団分析データの活用方法をご紹介します。
まず、ストレスチェックの調査結果により、2つの「仕事のストレス判定図」※4を作成し、仕事のストレス要因のうち、量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援という4つに注目し、ストレスの大きさとその健康への影響を判定します。
判定図の見方を、量コントロール判定図を例にとって説明します。
「仕事の量的負担」(横軸)と「仕事のコントロール(仕事に対する裁量権あるいは自由度)」(縦軸)をストレス要因とした場合のストレス度を数値の示すライン上にプロットしたとき、仕事の量が多くコントロールが低いほど右下にプロットします。
このとき、白い範囲から赤へ近づくほどストレスが生じやすい環境にあると考えられます。
また「職場の支援判定図」は、同僚、上司からの支援度が低いほど左下にプロットされます。

※4)ストレス判定図

量コントロール判定図
職場の支援判定図

活用方法②総合健康リスク

集団分析データの活用方法には「総合健康リスク」という手法もあります、
総合健康リスク※5とは、2つの判定図から総合的に判断して、現在の職場の仕事のストレス要因が、どの程度従業員の健康に影響を与える可能性があるかについて数値で表現したものです。
例えば健康リスクが118であれば、従業員の健康へのリスクが平均より18%増しになることを意味しており、職場ごとの総合健康リスクを下げるよう職場の健康管理やストレス管理を行う必要がある、と読み解くことができます。

※5)総合健康リスク算出表

総合健康リスク算出表

ストレスチェックの導入時に気を付けたいポイント

ケース①プライバシーの保護

ストレスチェック制度では、従業員の健康情報の保護が適切に行われ、従業員に対する不利益な取扱いの防止が徹底されなければならず、事業者がストレスチェック制度に関する労働者の秘密を、不正に入手するようなことはあってはなりません。ストレスチェック結果の提供は、労働者の同意を得ることが必要です。
従業員がストレスチェック結果を知る前に、提供の同意を得ることは不適切であるため、ストレスチェックの実施前や実施時に、労働者に同意を取得することはできず、事業者が提供を受けたストレスチェック結果や面接指導結果などの健康情報は、適切に管理することが重要です。

ケース②労働者に対する不利益な取扱いの防止

事業者が、ストレスチェック制度で知りえた従業員の健康情報等によって、従業員に不利益な取扱いを行ってはなりません。
不利益な取扱いには以下のものが該当します。

  • ・ストレスチェックを就業規則で義務付け、ストレスチェックを受けない従業員を懲戒処分にする。
  • ・ストレスチェック結果提供に同意しない従業員に不利益な取扱いを行う。
  • ・面接指導の結果を理由にした、従業員に不利益な「解雇」「契約更新をしない」「退職勧奨を行う」「配置転換」「職位(役職)の変更」などです。

ケース③守秘義務の遵守

ストレスチェック制度の運用において、実施者や実施事務従業者は、従業員の健康情報を取り扱うため、法律で守秘義務が課せられています。したがって、情報が第三者に漏れることがないように厳重に注意する必要があります。

参考:厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」

まとめ

全ての従業員が健やかに、いきいきと働くことができる職場環境を作るため、メンタルヘルス対策の体制や制度の整備に会社全体で取り組むことが必要です。
しかし、実施だけでなく結果を活用していくことも重要とされています。
厚生労働省が配布している「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」や、専門の業者によるアウトソーシング(外部委託)を活用しながらストレスチェックの結果を分析し、メンタルヘルス不調を未然防止する1次予防のため職場の環境改善に活用してみてはいかがでしょうか。

カシオヒューマンシステムズ コラム編集チーム

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